『花水木 ―四姉妹の影を追って―』 沖縄人と台湾の関わりに光


社会
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『花水木 ―四姉妹の影を追って―』 南ふう著 文芸社・972円

 本書は「四姉妹の影を追って」を副題にしているが、その内実は、よくある一家族の構成とその生い立ちを偲(しの)ぶ記念誌とは違い、明治、大正、昭和から戦後沖縄の激動の時代を、宮古島に生を受けた四姉妹を核にして、それにまつわる家族、親族、学業、職場、人物をおりなし展開し、宮古島、沖縄島、台湾、中国(偽満州)、東京、神戸などと資料を丹念に収集検索して、その足跡を現場に探訪したりして、史実に迫った力作である。

 それは琉球沖縄史の「女性史」「宮古史」「沖縄史」「海外植民地史」をも十分に補足するものとなっている。特に従来の沖縄史研究者が見落としてきた台湾、中国など東アジアと関わる沖縄人の海外体験の広がりと、その関わりをよく知るものでもあり、出版の意義は大きなものがある。

 四姉妹は、当時の女子の優秀校であった県立高等女学校に学び、その嫁ぎ先も同じく沖縄の「最高学府」であった沖縄県立第一中学校を卒業して、本土の大学や専門学校に進学しその後、台湾、中国大連などで教員や官吏になっている。その中の四女の嫁ぎ先になった渡久山寛三も台湾、中国(大連)などで就職してその道を歩んだ一人である。

 渡久山は戦後の引き揚げ後、アメリカ軍政下の沖縄商工会議所初代専務理事、琉球臨時政府の初代主計課長から検査官に任命されて、沖縄復興のかじ取り役を果たしている。著者の南ふうは、文学賞の受賞作がある作家であり、渡久山の次女として生まれている。

 本書で多くのページを割いているのは、著者の台湾調査である。四姉妹と親族らが生きた足跡を丹念に確認しながら、台湾人の生活、歴史、文化にも深く入り込み、理解を深めていく。その姿勢には学ぶことが多い。

 台湾と沖縄の関わりでは台湾疎開と引き揚げ、台湾空襲などは、沖縄戦と結合する「台湾戦」ともいうべきものであり沖縄人の戦死者も多い。戦後の台湾での虐殺事件に巻き込まれた2・28事件の犠牲者もいる。観光振興もある。隣接する台湾と沖縄、台湾に近い与那国、八重山、宮古と相互の関係性をよく知り、平和の友好交流を積み重ねることである。本書はその点でも今もっとも求められている。 (又吉盛清・沖縄大学客員教授)

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 みなみ・ふう 本名・浜田京子。1954年生まれ。九州芸術工科大学卒。『女人囃子がきこえる』で「第1回祭り街道文学大賞」の大賞受賞。『クモッチの巣』で「第19回ふくふく童話大賞」で大賞受賞。沖縄エッセイスト・クラブ会員。