204人による短歌、俳句、詩を収録した本書は、文芸誌「コールサック」92、93号での公募や趣意書プリント配布に応えて出された作品と、編者から推薦された作品で構成されているという。
序章「沖縄の歴史的詩篇」には末吉安持、世礼国男、山之口貘、佐藤惣之助、泉芳朗、牧港篤三、新川明の詩が並び、続く1章「短歌・琉歌――碧(アヲ)のまぼろし」には平敷屋朝敏、恩納なべ、折口信夫、謝花秀子らの作品、2章「俳句――世果(ゆが)報(ふう)来い」には金子兜太、沢木欣一、篠原鳳作、杉田久女らの作品が収められている。
3章から11章は詩のアンソロジーで、それぞれ「魂呼(タマヨ)ばい」「宮古諸島・八重山諸島」「奄美諸島」「ひめゆり学徒隊・ガマへの鎮魂」「琉球・怒りの記憶」「辺野古・人間の鎖」「ヤンバルの森・高江と本土米軍基地」「沖縄の友・沖縄文化への想い」「大事なこと、いくさを知らぬ星たち」という副題のもとに配列される。さらに編者による三編の解説が備わり、行き届いた編集になっている。
本書編纂(へんさん)の眼目は冒頭、末吉安持の詩「わななき」にあるだろう。
「紫の絹の帳(とばり)、/永遠(えいえん)の生命(いのち)ありと、/平和(やわらぎ)を守(も)りいつきて、」
末吉は雑誌『明星』に参加し、夭折(ようせつ)した詩人だが、この明治の詩人が記した詩に「平和(やわらぎ)を守(も)る」精神を見いだし、それを編集の指針にしている。
全篇を通読して印象に残ったのは、次の短歌である。
「はつ夏にさやぐ緑のただ中でしずかに脈打ついしじの碑銘」
「いくたびも這い上がろうとする泡を波はだき寄す摩文仁の涯で」(座馬寛彦)
固い石碑が脈打ち、泡と波の動きが鮮やかに生動する。本詩歌集自体が、そんな言葉の運動を作り出しているかに思われた。
本書は沖縄・奄美について考えるために魅力的なアンソロジーである。ここから出発して、読み手はまた別の詩篇を手繰り寄せることができるにちがいない。
(葛綿正一・沖縄国際大学教授)
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すずき・ひさお 詩人、評論家、編集者、コールサック社代表 さそう・けんいち 詩人、評論家、編集者 ざんま・ひろひこ 歌人、編集者 すずき・みつかげ 俳人、編集者
コールサック社 (2018-06-21)
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