『竹富町史第7巻 波照間島』 スムヅレの島を網羅


社会
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『竹富町史第7巻 波照間島』竹富町史編集委員会編 竹富町史編集委員会・3240円

 波照間島といえば、一般に日本における有人島の中で最南端と説明される島である。このほどその島の地域誌が竹富町史の中の一冊として上梓(じょうし)された。

 竹富町は「通史編」「島じま編」「資料編」の三本柱で町史編纂(へんさん)を進めており、「島じま編」はこれまで4冊(竹富島編、小浜島編、新城島編、鳩間島編)が刊行されている。それぞれ読みごたえがあるが、総ページ数904、全13章からなる本誌も非常に充実した内容になっている。

 いわゆる波照間方言での表現を、各章で丁寧に記述しているのがまず面白い。例えば2章の「自然」では、小さな虫や草まで方言名が記されている。それらの名称から島の人々のユニークな発想や、個々の動植物がどのように生活に関わってきたかなど、眺めるだけでうかがうことができ、単なる記録にとどまっていない。

 波照間島は、沖縄の近現代史において強制移住による〈戦争マラリア〉の被害があったことでも特筆される島である。その経緯や証言については3章「歴史と伝承」に詳述されているほか、4章「教育」、7章「人生儀礼」等でもそれぞれの視点から〈戦争マラリア〉についての記述がある。戦争が戦災だけではなく人災による被害も大きいことを学べる貴重な記録であり、改ざんも書き換えも許されない人類共通の財産ともいえよう。

 また、島に豊富に伝承されている説話や古謡も、本書では丹念に拾われている。それらは3章にまとめられているほか、各章の中にも編み込まれている。説話が島の人々の生活に分かち難く根付いており、古謡は折々の芸能の場や年間40以上ある島の祭祀(さいし)の中で現在も息づき、島の人々やツカサたちによって大切に歌い継がれているのが伝わってくる。

 波照間島はスムヅレの島、波照間の人々はミンピゥガーと称されるという。スムヅレとは「心を一つにする」の意、ミンピゥガーは「気立てのいい人」の意とされる。日本最南端の有人島というだけではなく、ミンピゥガーの人々の紡いだスムヅレの島の歴史や文化に、本書を通し想(おも)いを馳(は)せてみませんか。 (照屋理・名桜大学上級准教授)

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 竹富町史編集委員会の編集委員長は石垣久雄氏(八重山歴史研究会会長)で、第7巻波照間島の専門部会長は玉城功一氏(元高校教諭)。2003年に島出身者による専門部会を発足し、16回の専門部会を重ねた。28人が執筆した。