『山城達雄選集』戦争に翻弄される沖縄人


社会
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『山城達雄選集』山城達雄著 ボーダーインク・1836円

 闇の中に小さく光る星が散る、美しいカバーにくるまれた本。3篇の戯曲と2篇の小説が収められている。その綺麗な星の空の表紙とは異なって、最初の戯曲は素っ裸の男たちが居並ぶ「日常」から始まる。朝の刑務所における受刑者の点呼の風景だという。初っぱなから、果たしてこの演劇はどう始めればよいかを考えて少し笑ってしまう。

 しかしこれは人権の侵害を端的に伝えるシーンだ。アメリカ統治下、生活者が容易に犯罪につながった時代の刑務所は賑やかで生々しく、理不尽な扱いに声をあげる姿は溌剌(はつらつ)として、いっそ楽しそうだ。においが立ち上がるような勢いがある。個性豊かな囚人たちが刑務所に入れられた経緯を嘆き、怒り、人権無視の刑務所の環境に不満を募らせている。

 そこに瀬長亀次郎が連行され、囚人たちのがちゃがちゃした不満と欲求は、権利を求める要求へと姿を変える。亀次郎は、すっと皆の心に言葉を与えて、戦い方を示す。ばらばらの藁(わら)から縄を綯(な)うように。彼らは団結して権力者と戦う。その様子が気持ちいい。映像で亀次郎の姿を見ているからこそかもしれないが、戯曲のなかの亀次郎のたたずまいが鮮やかに浮かぶ。彼を囲む囚人たちの熱狂も。亀次郎らが去ったあと、囚人たちが語り合う。「あの人たちは、沖縄のニヌファブシ(北極星)だなぁ」

 すべての作品で、戦争によって人生を翻弄(ほんろう)される沖縄の人の葛藤が描かれている。舞台は刑務所であり、敵の目を盗んでの樹上生活であり、米国の日系人収容所だ。飢えのなか南洋にわが子を置いてきた母、米軍基地でメイドとして働く女性たち。生活や人権が守られないという意味で、それらは極端な「日常」に違いない。にもかかわらず、今の沖縄の辛苦に重なる。この時期に読むことの意味を感じた。私たちは北極星を見つけなくてはいけない。

(上田真弓・劇作家、演出家 満月即興代表)

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 やましろ・たつお 1936年生まれ。新聞記者などを経て小説、戯曲を執筆。98年「窪森」で第24回新沖縄文学賞受賞。日本民主主義文学会会員。戯曲に「北極星(にぬふぁぶし)」「命の樹ガジュマル」、2006年に小説集「監禁」出版。