『法廷で裁かれる南洋戦・フィリピン戦〈被害編〉』 玉砕戦全容 詳細に記述


社会
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『法廷で裁かれる南洋戦・フィリピン戦〈被害編〉』瑞慶山茂編著 高文研・5400円

 春先に「法廷で裁かれる南洋戦・フィリピン戦〈訴状編〉」と題する本に出合った。「強いられた民間人玉砕の国家責任を問う」のサブタイトルがついている。編者の瑞慶山茂氏の名前とその活動については、数年前に新聞記事で拝見していた。沖縄戦被害の国家賠償訴訟弁護団の団長を務め、その記録を〈訴状編〉と〈被害編〉に分けた出版物もある。

 さて、本書は先の〈訴状編〉に続く〈被害編〉である。

 多くの民間人を地上戦に巻き込んだ南洋戦、フィリピン戦について、著者は「日本軍が民間人に玉砕を強いた世界戦史上まれにみる残虐非道極まりない戦争」とし、責任を負うべき国は「謝罪も償いもせず、被害を放置し続けている」と明言する。

 被害の実態は多様である。戦死者は語ることはできないが、生き残ったものの身体的障害を持った者、精神的障害に苦しむ者、家族全員戦死して孤児になった者がいる。こうした人的被害のほかに、物的損害も計り知れない。

 本書の1章から4章までは、国家賠償を求めた訴訟の目的や原告団結成、一審判決で請求が棄却されたこと、行政法学者・西埜章氏による一審判決の検討論文、南洋戦・フィリピン戦はどういう戦争だったか、その全容が詳細に記述されている。

 5章では、原告団45人の陳述書から、被害の実態が浮き彫りにされ、終章では彼らの外傷性精神障害の実態が、蟻塚亮二医師の診断書と鑑定書付きで示されている。

 市町村史編集の仕事に従事してきた私は、南洋戦・フィリピン戦について、ある程度知っているつもりでいたが、本書から改めて学んだ点がある。戦争被害は戦後にも及ぶということ。アジア太平洋戦争では「玉砕戦を強いられた民間人の被害」が多かったという視点を持つことそして、現地住民の犠牲者にも思いを馳(は)せることなどである。

 その視点を忘れず、これからも戦争体験の継承に取り組んでいきたいと思う。

 (新垣安子・新沖縄県史編集委員)

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 ずけやま・しげる 1943年6月パラオ・コロール島で生まれる。弁護士。66年琉大法文学部卒。71年弁護士登録。南洋戦・フィリピン戦被害・国家賠償訴訟弁護団長。著書に「法廷で裁かれる沖縄戦」(訴状編、被害編)など。

 

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