猛暑、豪雨、台風 1週目で経験 富士山に魅せられる【80歳ナゴマサー 列島歩き】


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 江戸は日本橋から琉球まで謝恩使の逆、約1500キロを歩くことを企てました。

 8月31日の出発の朝、すでに気温が上がった日本橋には30~40人の応援団が駆け付けてくれた。五十数年前の中学の教え子、走り仲間やアーティスト、遊び友達にウチナーンチュと笑顔がそろい、朝なのにまるでパーティー会場のようだった。

 「8時半だよ、出発したら」。仲間の一人にこう背中を押され、感謝を込めて出発。猛暑の中、走り仲間のマサとコウイチが伴走してくれた。3日目は、友部正人さんらマラソン仲間6人が同行し、夕方、別れた神奈川県の辻堂からさらに横浜まで走って帰宅するという強者の女性軍団だった。

 1週目にして猛暑、豪雨、強風、台風、箱根の山越えといろいろ経験させてもらった。大阪や北海道での災害被害の比でないが…

台風接近で、高波が押し寄せる田子の浦海岸。波で削られ丸みをおびた石が横たわる=9月、静岡県

 かじばーばー ふきとぅ ばさりん 田子の浦

 高波に見とれて、疲れも吹っ飛んでしまう。時間も飛んで、興奮しきり。しぶきの力と美しさに吸い込まれ座り込んでしまった。強い波に打たれ丸みを得たいろいろな石にも感激して、ついつい手にして袋に入れた。「いや重い!」ただでさえ肩や腰に食いこむバックパックには入れたくない。ここに置き去るはいやだこの美しさ。どうしよう?

 富士山の三角頭が雲間を抜けて姿を現しては隠れ。またまた立ち止まってカメラを構えることが多くなる。早く目的地に向かって歩きたいのと撮影との葛藤が始まる。

三角頭が雲間を抜けて姿を現しては隠れる富士山。魅せられ思わず立ち止まってカメラを構える=9月、静岡県

 富士の三角形と曲がりくねった松の木の自然な形の組み合わせに魅せられた、歌川広重、葛飾北斎のわくわくした心が手に取るように理解できる。日はとっぷりと暮れ、暗い歩道を早足に抜ける。

   9月7日記 静岡県清水にて
 (比嘉良治、ニューヨーク通信員)

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 米ニューヨークに在住する芸術家で名護市出身の比嘉良治さんが80歳を迎え、東京都の日本橋から沖縄までの歩き旅をスタートさせました。列島歩きを通して出会う人や風景、出来事をつづります。