『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』 「消された沖縄」に迫る


社会
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『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』藤井誠二著 講談社・2160円

 「女性にとっての最終地点」と称された宜野湾市の真栄原新町。売春街として知られるこの地域は戦後黎明(れいめい)期に米軍の性暴力から一般女性を守るために性の防波堤として形成された。

 しかし2010年前後を境に街は「浄化運動」によって壊滅に向かっていく。本書は闇の生業に従事する女性や雇い主、米兵犯罪などの実態を5年以上にわたって取材し、そこに生きた者たちの戦後史を描き出したルポルタージュである。

 沖縄では王朝時代から続く旧遊郭街の辻は「文化」として語られる。他方、本書の舞台になった真栄原新町やコザの吉原は沖縄の恥部とまで侮蔑され、人も街も駆除されるがごとく排除された。2年前、僕は「消えゆく沖縄」(光文社新書)という本を書いたが、官民一体でこれほどあからさまに「消された沖縄」は、他に類例がなかったかのではあるまいか。

 読みながら気づいたのは本来語りたくない過去を彼女たちはむしろ積極的に著者に述べ、語ろうとしていることだ。体を売る者とて人であり母である。彼女たちは生きた証しを訥々(とつとつ)と語り繋(つな)ぐ。そのことによって取材対象が広がり、ページをめくるごとに女たちや街の来歴が影絵のように次々と立ち現れてくる。

 そのあまりに壮絶な生き様に読者はときに絶句するだろう。が、同時にその影絵の連続がデジタルリマスター版の生々しい映像のごとく脳裏に焼き付く感覚に陥るはずだ。著者の研ぎ澄まされた眼力と地を這(は)うような取材力がそのような効果を生んでいるのだが、さらにいえば、同じ沖縄に暮らしながら域内から分断され、全く異なる生活を送った人がいたことを初めて思い知らされる読者も多いはずだ。

 著者は東京と沖縄を行き来する生活を続けている。その土地の持つ価値や歴史は往々にして外部の人によって発見されるものだが、闇の歴史の真相も外からの視点がなければ、あぶり出せないのかもしれない。

 沖縄のもうひとつの戦後史が消える寸前で拾い上げられ、再構成された意義はあまりに大きい。沖縄にとって第一級の記録文学というべき作品である。 (仲村清司・作家)

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 ふじい・せいじ 1965年愛知県生まれ。ノンフィクションライター。愛知淑徳大学非常勤講師。教育問題、少年犯罪、犯罪被害者の問題など社会的背景に迫る。著書に『少年に奪われた人生』『殺された側の論理』など50冊以上。

 

沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち
藤井 誠二
講談社
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