『魂の政治家 翁長雄志発言録』 「霊」宿した言葉の重み


社会
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『魂の政治家 翁長雄志発言録』琉球新報社編著 高文研・1620円

 久高島最大の神事イザイホーで、新たに神女となる際の最も重要な儀式に「たまがえーぬうぷてぃしじ」というのがある。祖母霊(守護霊)の魂を引継ぐ儀式である。新しく生まれた神女は、荒ぶれる海に向かう兄弟や夫、息子たちを守り、島の安寧(あんねい)と豊穣を祈った。

 言霊、あるいは言魂という言葉をウチナーグチに直してみた。「くとぅだま」であろうか。なんだか、しっくりこない。魂を継ぎ繋(つな)ぐ「たまがえー」がぴったりとハマるような気がした。

 翁長雄志さんが発する言葉には、確かに言霊が宿っていた。それは例えば「教科書検定意見撤回を求める県民大会」での11万人を前にしたとき、「オスプレイ配備反対県民大会」での10万2千人を前にしたとき、あるいは、菅官房長官と一対一で接したときも、言葉の端々に「話くゎっちー」などとウチナーグチをピンポイントに挟みながら放った。時には鋭く、時には切々と、ときどき激しく。

 翁長さんは政治家だから言論の人であることは当然だが、それに加えて自ら強く望んだ那覇市長12年の行政経験が、いよいよ言葉の重みを持つようになったのではと思う。議場での丁々発止が、ますます翁長雄志の放つ言葉に厚みと重みを加えていった。市長答弁は広角打法で左右に打ち分け、狙いすましてホームランも数多く打っていた。

 「うちなーんちゅ うしぇーて ないびらんどー」

 2015年5月17日にセルラースタジアム那覇で行われた「止めよう辺野古新基地 沖縄県民大会」の場で発せられた一文である。その日は人々が文字通り球場を埋め尽くしていた。内野席、グラウンドも超満員、そして弁士の姿も見えなかったであろう外野席も埋め尽くされていた。外にも会場へ入れない人々が詰め掛けていた。そういう中で、翁長雄志のまるで火を吐くような言葉が発せられた。

 まさにあの時こそがそうであった。「毛(きー)ぶり立(だー)ちゃー」(鳥肌が立つさま)モンであった。

 『魂の政治家 翁長雄志発言録』に収められている言葉は、まるで翁長雄志言霊事典のよう。

 (宮里千里・元那覇市職員)

 

琉球新報社編著
四六判 208頁

¥1500(税抜き)