【与那国】与那国町議会(定数10)の議長がいまだ決まらず、泥沼化の様相を呈している。12日までに合計49回の議長選を実施し、大台の50回が目前に迫る。全国的にも異例の状況だが、議長選出を避けたい与野党双方とも議長職の“押し付け合い”を続ける方針だ。一方、議長不在のため議案審議にも入れず、9月の選挙で1票を託した住民の不満は高まっている。
当初予定されていた9月定例会の会期日程は9月28日~10月11日。だが12日も、議会冒頭で行われる議長選出の手続きが繰り返された。与野党で議席数が拮抗(きっこう)するため、採決に加わらない議長選出を回避しようと、投票を経てくじで当選した議員の辞退が続く。
議長選出の方法を規定する地方自治法では、くじの当選者が辞退した後の手続きを定めていない。同法を所管する総務省の担当者は「(辞退が続くことを)法が予定していない。与野党が話し合って決めてもらうしかない」と説明。これほど議長選が行われることについては「全ての事例を把握していない」とした上で「聞いたことがない」と話す。
打開策を探ろうと、10日には与野党が話し合いの場を持ったが決裂。与野党とも双方への不信感をあらわにしており、収束の気配はない。「トンネルに入って出口が見えない状況」(外間守吉町長)に、町役場の職員もあきれた表情を見せる。ある職員は「互いに協力して『歴史』をつくる作業をしている」と皮肉った。
町民からも不満が噴出。50代女性は「恥だ。町民生活について議論するのが議会の役目。代表として選挙で選ばれたのに何をやっているのか」と憤る。役場にも批判の電話が5件ほど寄せられているという。一方、40代男性は「みんなあきれているけど、小さい島なので生活を考えると批判しづらい」と声を落とす。「誰かに間に入って調整してもらいたい。いいかげんどうにかしてほしい」と求める。
地方自治に詳しい照屋寛之沖縄国際大教授(政治学)は「前代未聞だ。教科書的だが二元代表制の地方議会には本来、与野党はない。住民代表として行政をチェックしたり、さまざまな案件を考えたりするのが役割だ。議長を決めるのが仕事ではない」と指摘する。その上で「現状は議会の体をなしておらず、議会の能力が問われている。このまま議長すら決められない状況が続くのならば、総辞職するべきではないか」と強く批判した。 (大嶺雅俊)