バス速度超過問題 事実積み重ね苦戦 調査報道で関心事を深掘り


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制限速度50キロの一般道を80キロ以上のスピードを出して走るバス=8月、金武町

 半信半疑ながらもカメラを首にぶら下げ、その瞬間を待っていた。8月中旬、本島東海岸を走る路線バス。制限速度50キロの一般道で2回、80キロを超える速度違反を確認した。始点からバス車内の最前列に陣取った記者は、速度メーターに照準を合わせ、夢中でシャッターを切った。

 乗車取材をしたのは、5月に読者から「路線バスが速度超過や急ブレーキを繰り返していて危ない」と情報提供があったからだ。同僚記者とチームを組んで取材に当たった。

 記事で心掛けたのは、運転手がアクセルを踏まないといけなくなる背景をあぶり出すことだ。交通違反をセンセーショナルに取り上げるのではなく、公共交通の課題を読者に提起したかった。そのため、乗車取材だけにとどまらず、バス会社や組合、沖縄総合事務局などに話を聞くのと同時に、乗用車で同じ経路を走行し所要時間を測り、運行時刻表(ダイヤ)が適正かどうかも調べた。

 記事は9月下旬、読者から寄せられた情報や疑問を基に、記者が取材して応える「りゅうちゃんねる」として掲載された。従来の新聞記事の形式とは違う取材過程や記者の感情も盛り込んだ2500字を超える長文だったが、反響は大きかった。現役の運転手からも連絡があり、「好きで飛ばす運転手はいない」と記事に同意してくれた。

 ただ、実際の取材は難航した。情報提供はあってもそれが事実かは分からない。情報の確度を調べるために県警や行政に取材したが、実態はつかめず、約4カ月の取材期間を要した。

 取材中、あるバス利用者から言われた言葉が忘れられない。「新聞がこういうのを取り上げるとは思わなかった」。新聞は大切な問題でも取り上げないものもある―。いつの間にか読者にこう思われてはいなかったか。戸惑いながら「事実があるならやりますよ」と答えた。

 新聞には読者の関心事を深掘りし、時には社会問題として世の中に提示する役割がある。調査報道の地道な取材が、読者との距離を縮めていくのは間違いない。報道することで少しでも社会が良くなればと願う一記者として、これからも事実の積み重ねに悪戦苦闘していきたい。 (梅田正覚)

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 15日から第71回新聞週間が始まった。記者は新聞記事を書く中でどのように現場に向き合い、悩みや葛藤を抱えながら取材を続けているのか。記事の背景にある思いを紹介する。