『六月二十三日 アイエナー沖縄』 人ごとでない6・23史


社会
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『六月二十三日 アイエナー沖縄』大城貞俊著 インパクト出版会・1944円

 大城貞俊は沖縄戦にこだわり小説を書き続けてきたが、その理由を本書所収の「ツツジ」に見つけて得心がいった。「沖縄の地で生まれ、沖縄の地で生きている表現者にとって、戦争体験の形象化は避けては通れない大きなテーマである」

 本書に所収されている3編はいずれも沖縄戦を取り扱っている。表題作の「六月二十三日 アイエナー沖縄」は、1945年を始まりとして十年ごとの6月23日を2015年まで、それぞれ異なる主人公が物語るという趣向を凝らした小説である。

 国防のために召集された護郷隊の少年兵、米兵に暴行される少女、米軍によって土地を奪われた老人とその孫、コザ暴動当時のAサインバーで働く女給、集団自決で兄に殺された妹。彼/彼女らが自分たちの直面した出来事をこと細かに語っていく。沖縄戦後史は作中の人物たちが何度も嘆きの声を上げているように、「アイエナー」としか発することのできない歴史といっていいだろう。

 念頭におきたいのは、これらの出来事は決して人ごとではないということだ。「あるいは私であったかもしれません」と作中の人物が言うように、私たちは歴史の外にいることを許されない。

 この小説では体制側につく人間が語り手になることもある。機動隊の一員である若い男は「ぼくは沖縄が嫌いだ」と言う(「足」)。軍用地主の息子がいる(「ダミン」)。基地問題をめぐる争いについてこう思う。「日本とアメリカーと沖縄との知恵比べさ。俺は関係ないよ」。交錯する複雑な社会・政治が生み出した息子たち。彼らもまた「沖縄」を生きている。大城はその善悪を安易に断じない。

 現在を舞台にした最後の章で「友よ、希望は確かにある」と精神錯乱した作中人物は静かに語る。明るい未来がこの沖縄に保証されているわけではない。しかし、沖縄戦という過去や沖縄戦の傷を背負ってきた人々と誠実に向き合うときに、より良き未来を築こうとする希望が私たちの内にはすでに芽生えているように思われるのだ。

 (崎浜慎・作家)

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 おおしろ・さだとし 1949年大宜味村生まれ。元琉球大学教授。詩人、作家。九州芸術祭文学賞佳作、山之口貘賞など受賞歴多数。主な著書に小説『椎の川』『アトムたちの空』、詩集『或いは取るに足りない小さな物語』など。

 

六月二十三日 アイエナー沖縄
大城 貞俊
インパクト出版会
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