政治

特別評論 玉城県政発足 自立への渇望、何度でも

県議会10月定例会の一般質問で県議に回答する玉城デニー沖縄県知事=22日午前、県議会

 台風25号の風雨が強まっていた10月4日深夜、夜勤のデスク業務を終えて会社前でタクシーに飛び乗った。9月30日の県知事選で当選した玉城デニー氏が県庁に初めて登庁したこの日、当選証書の交付から就任記者会見と朝から慌ただしく続いた。一方で台風の接近で県庁は午後から緊急閉庁となり、新知事から職員への訓示は吹き飛んだ。玉城県政、嵐の船出―。陳腐だがそんな表現が頭に浮かんでいた。

 暴風の中を進むタクシーの車中で、そういえば先週の今ごろも台風が心配だったねと運転手と話になった。南から台風24号が北上して知事選に直撃する予報があり、投開票が実施できるのか新聞社も気が気でなかった。投票率への影響も懸念されたが期日前投票所には1票の行使を無駄にしまいとする有権者の長蛇の列ができ、関心の高さをかえって印象付ける形になった。

 「久しぶりに投票に行ったんですよ」と運転手が問わず語りにつぶやいた。年齢は私と同じか少し上の40代半ばくらいか。「高校生の娘から知事選の話をしてきたんです。それで息子も含めて家族で話をして、今度の選挙は県民投票みたいなものだよって子どもたちに言ったんです。今ここで沖縄が政府に擦り寄る結果にしてはいけないよって」と続けた。有権者一人一人が真剣に向き合った行動が積み重なり、結果として玉城氏の過去最多得票となったことの重さを実感させられた。「今の政府のやり方では基地は造られてしまうかもしれない。でも、無駄な抵抗だとしても自立したところを見せないといけないじゃないですか」の言葉に、こちらの眠気も吹き飛んでいた。

 新県政が発足して早々の12日に、就任あいさつで上京した玉城知事と安倍晋三首相、菅義偉官房長官との官邸での面談が実現した。玉城知事は辺野古新基地建設反対の民意が自身の当選によって改めて示されたことを伝え、翁長雄志前知事による埋め立て承認の撤回に法的措置を取るのではなく県政との対話の継続を求めた。

 だがこの5日後、沖縄防衛局は名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回した県の処分を不服とし、行政不服審査法に基づく審査を石井啓一国土交通相に対して請求。審査結果を待たずに撤回による工事停止の効力を直ちに止める執行停止も併せて申し立てた。知事選で示した沖縄の民意はあまりにも早く簡単に踏みつけられた。

 21日投開票の那覇市長選が繰り広げられているさなかでもあった。もはや沖縄の選挙には一切配慮しないという冷淡で強権的な態度を取っても、内閣支持率には響かず、地元の自民党県連から抗議の声が表立って上がらない(上げられない)ところに、今の政治状況の異様さを覚える。

 法廷闘争で知事を追い込み、基地建設の既成事実を積み重ねて県民の間に諦めを広げる。翁長前知事への当面の弔いムードが過ぎ去れば局面は変わるという認識が透けて見える。

 だが、知事選の結果は本当に一過性のものだろうか。「基地は造られるかもしれない。だけど……」という自立への渇望は、確かに翁長氏の死がきっかけになりはしたが、折に触れて何度でも噴き出す県民の潜在意識だ。辺野古移設に反対しない県政を誕生させるためなら選挙期間中は辺野古の工事を止めたままでやり過ごし、大量の国会議員や運動員を全国から投入しながら、望まない結果になればローカルな民意を無視してはばからない。県民は基地問題を通して見える本土と沖縄の時々の関係をよく見ていて、その記憶を内面に刻み込んでいる。豊見城市長選、那覇市長選と連勝した玉城県政にとって、あるべき地方自治の目標へとぶれずに進路を取っていけるか。民意をつなぎとめる試金石となる。(与那嶺松一郎 政治部キャップ)