『翁長知事の遺志を継ぐ』 自治のための闘争 当事者に


社会
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『翁長知事の遺志を継ぐ』宮本憲一・白藤博行編著 自治体研究社・648円

 翁長雄志前知事急逝に応え、先月に緊急出版された本書の編者の一人である白藤博行氏は「あとがき」で、辺野古をめぐる「翁長知事の命懸けの戦いは」「沖縄の自治のための闘争」であったと評する。そして「自治は闘争なしに獲得不能」であり「自治の生命は闘争である」ことを「翁長知事の遺志」の一つとして引き継ぎたいと述べる。

 翁長前知事は、県民の記憶に永く残る印象的な言葉を多く発した。本書に寄せられた13名の有識者による論考の中でも言及されている翁長前知事の遺志(言葉)の一例を示そう。

 (自由・平等・自己決定権を蔑ろにされ続けてきた沖縄県民の心情を示す)「魂の飢餓感」

 「基地は経済発展の阻害要因」

 「私たちが屈することなく立ち向かっていく姿を子どもたちに見せれば、子どもたちは子どもたちなりの判断をして力強く生きていくと信じます」

 「ウチナーンチュ、ウシェーテー、ナイビランドー(沖縄県民を蔑ろにしてはいけませんよ)」

 本書の副題でもある「辺野古に基地はつくらせない」ための闘争は多面的である。辺野古の現場で体を張るスタイルや選挙もある。本書では、憲法・自治・訴訟・環境・経済・外交(対中関係)・歴史(反戦平和)等の学術的観点から、これまでの問題状況を整理し、今後の課題や展望を考察する。

 幾度も示される新基地建設反対の民意に構わず、沖縄との真摯(しんし)な対話も怠り、沖縄理解には程遠く、作業を強行し続けようとする政府に厳しく向き合う当事者は、ひとり知事のみならず、結束する不特定大多数の沖縄住民(「オール沖縄」)となろう。

 他者(特に日米両政府)に干渉されることなく沖縄のことは沖縄が決める「沖縄の自治のための闘争」において、市民が、公権力にひたすら追従する傍観者ではなく、ないがしろにされ続けてきた沖縄の「尊厳」や「魂」(自由・平等・自己決定権)を回復し、各人なりに「闘争」の当事者となる糸口を探る手引きが本書である。

 (大城渡・名桜大学教授)

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 みやもと・けんいち 滋賀大学元学長、大阪市立大学名誉教授。

 しらふじ・ひろゆき 専修大学教授 執筆者は、沖縄大、沖縄国際大、琉球大の教授など識者13人

 

翁長知事の遺志を継ぐ 辺野古に基地はつくらせない
宮本 憲一 白藤 博行
自治体研究社 (2018-08-29)
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