子供の頃は「道草」が悪いことのようにしつけられたとの思いがある。なぜかと、理由を聞いた覚えはない。道草してもいいじゃないかと心のどこかに秘めていたのだろう。
歩いているとさまざまな出会いがある。その度に足を止め、腰を下ろす楽しみがある。カメラと持つとさらに度重なる。
箱根の山に咲くアジサイとユリの花に目足が止まった。鎌倉のアジサイは6月で、沖縄のユリが4月だ。9月、台風の中での出会いがうれしかった。工業地域の片隅で、騒音にまみれて咲く2、3センチほどの濃紺色の花の裏でセミが夏の終わりを告げている。
「暑いから休んで行きなさい」。そう声をかけられて、縁側に腰を下ろす。関宿のきれいな街道沿いで、94歳のお姉さんとうわさ話で油を売る。
香川県の国道沿いでは、家の前で掃除をしている方に「蒸しますね」とあいさつをしたら、腰を伸ばして「お遍路さん?」
「いいえ、東京から歩いています」と言うと、「中に入って休んでください」と言われる。目に入るほこりがかぶった商品が雑貨屋だった面影を残す。冷えたモモのジュースで喉を潤しながら会話が弾む。
「このお店、昔は大もうけしたでしょう」。初めてお会いする方に聞く浅ましさ。81歳で同級生だと喜ぶお姉さんは「もうかったわよ」と目を閉じてにっこりうなずく。
トンネルの出口では大型トラックが強い風圧を押し出す。その度に大きく揺れる草花に目が留まり、近寄ると草の幹をしっかり抱きしめた不動のチョウの幼虫が、しっかり生存していた。生きる技を見る。トンボの群れが夕日を受けている。雨にぬれた木の葉の緑とマンジュシャゲの色鮮やかな景色から、キンモクセイが満開となり、畑では伊予(いよ)美人の収穫、稲穂の黄金色がオミナエシと色を争っているようだ。
急斜面の山にあるオレンジ色の玉に、音の響きさえも感じさせる、伊予の国のミカン畑に足取りも軽くなる道草。
10月19日 大分県臼杵港
(比嘉良治、ニューヨーク通信員)
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米ニューヨークに在住する芸術家で名護市出身の比嘉良治さんが80歳を迎え、東京都の日本橋から沖縄までの歩き旅をスタートさせました。列島歩きを通して出会う人や風景、出来事をつづります。