『国際社会の中の沖縄・奄美』 新たな角度で見る沖縄


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『国際社会の中の沖縄・奄美』明治大学島嶼文化研究所編 風土社・2160円

 本書は、明治大学島嶼(とうしょ)文化研究所設立記念事業として開催されたシンポジウム「国際社会の中の沖縄・奄美」の成果報告書である。基調報告として山内健治「基地と聖地」、泉水英計「50年代沖縄のヒストリオグラフィー」、村松彰子「沖縄の信仰と〈つながり〉のありよう」、吉田佳世「相反するまなざし―沖縄の女性と祭祀(さいし)」、福岡直子「奄美の『民俗誌』の現在」の6本と、記念講演として渡邊欣雄「グローバル沖縄」とクライナー・ヨーゼフ「私の見てきた奄美・沖縄」の2本が収録されている。いずれも、人類学もしくは民俗学畑の面々である。

 コメンテーターの高桑史子が回顧しているように、1960年代から70年代にかけては、欧米の影響を受けた人類学による沖縄研究の隆盛があり、親族組織、シャーマニズム、世界観などが主たるテーマとして論じられた。90年代以降の研究に往年の勢いが失われた背景の一つには、高桑も指摘するように、過疎化などによるシマ社会の構造的変化が、従来の研究テーマのいくつかを古びたものにし、沖縄社会の実態に即した新たな研究テーマの模索を促したという事情があった。

 70年代に沖縄研究を始めた学界の重鎮である渡邊は、今世紀に入って以降も沖縄研究を牽引(けんいん)してきたが、今回の講演には、「ホスト&ゲスト」というサブタイトルを付けている。ホストとしての沖縄では、近世の閩人(びんじん)三十六姓の存在と近代の台湾からの移住者に注意を向け、ゲストとしての沖縄では、ブラジルの沖縄系移民をめぐる問題について論じているが、その際の「仮構としての沖縄文化」という理論設定は、「国際社会の中の沖縄・奄美」研究に関する氏独自の分析概念の提示として注目したい。

 若手研究者が中心の基調報告でも、タイトルからもうかがえる通り、斬新な視点からの研究成果が提示されている。グローバル化を含め社会環境が大きく変化し続ける沖縄・奄美社会において、現状に見合ったいかなる研究テーマや研究視角があり得るのか、それらの報告を題材にして検討してみたい問題である。

 (赤嶺政信・琉球大学教授)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 めいじだいがくとうしょぶんかけんきゅうしょ 島嶼部が抱える諸問題を検証し、その解決に向けた具体的方法を提言することを目的に、2015年4月に明治大学知的財産事務室・特定課題ユニットとして設立された。

 

国際社会の中の沖縄・奄美
明治大学島嶼文化研究所
風土社 (2018-09-13)
売り上げランキング: 500,771