県民投票「骨抜き」狙う 宜野湾議会が反対意見書案


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<解説>

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に伴う埋め立ての是非を問う県民投票に反対する意見書を宜野湾市議会が可決すれば、他の市町村議会の動向や、投開票に必要な予算の議会審議などに影響を与える。宜野湾市議会与党は投開票事務の予算案を否決することも検討している。普天間飛行場を抱える地元で投票ができない場合、投票結果に説得力を欠くとみられる可能性がある。

 与党会派の市議は「普天間飛行場を抱える地元であることが強みだ。市民の民意は危険性除去だと既に示されている」と強調する。一方、県民投票の結果、埋め立てに反対する票が大半を占めることへの保守政党の警戒が背景にあり、県民投票を「骨抜き」にしたい思惑も透ける。

 県民投票の実施を求める署名をした宜野湾市民は5264人、有効署名数は4813人分に上る。住民からの直接請求は民主主義を担保する手続きの一つだ。その意思や県議会で可決された条例の趣旨を否定することになり、慎重な議論が求められる。

 宜野湾市民の間で「今ある普天間飛行場の問題が置き去りにされている」との不満があるのも事実だ。県がそうした声にどう応え、協力を取り付けることができるか注目される。

 宜野湾市議会の動きは保守系が多数議席を占める他の市町村議会にも波及する可能性がある。県民投票条例は市町村が投開票などの事務を担うと定めており、首長は協力する義務を負う。議会が予算を否決した場合でも首長が専決処分して予算を成立させることができる。態度を保留している4市長の動向が今後の焦点となる。

 補正予算が成立しなければ、その市町村の住民は投票権を行使できないことになる。県民投票の実施を求める約10万人分の署名を県民がどう捉え、行動するのかも問われる。 (明真南斗)

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〈識者の見方〉

政治家は参加し説明するべきだ

 仲地博沖縄大学長(行政法)の話 1996年の県民投票と同様に今回の県民投票も政治的運動である。米軍普天間飛行場の辺野古移設に賛成する人と、やむを得ないという人は、その意思を示す機会として県民投票に参加すべきだ。

 政治家もそのように説明し、有権者を説得すべきである。

 しかし、そうすることなく、費用の面や選択肢などを理由に逃げている。石垣市や宜野湾市などで、仮に県民投票をしないということになれば、市長や市議会議員の政治責任が問われることになる。

 民主主義はお金も人も時間もかかる制度である。それが民主主義という制度のコストだ。「お金がかかる」という理由で民主主義を否定することはできない。

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機会の剥奪 許されない

 白藤博行専修大教授(行政法、地方自治法)の話 県民の代表である県議会で条例を制定し、実施を決めた県民投票は、選挙以外のもう一つの民主主義の実践であり、国政にはない直接民主主義の実践だ。市町村が、このような県民の機会を安易に剥奪することは許されない事柄である。

 今回の県民投票は、形式的には行政主体である沖縄県が県民投票の実施主体だが、実質的には多くの賛同署名を踏まえた県民主導の住民投票であるといえる。

 県民の住民投票権を奪うことには、市町村議会においてもイデオロギーにとらわれず、直接民主主義の保障という観点から、ことさら慎重な議論が必要である。