『キジムナー考』 伝承やさしく 探究面白く


社会
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『キジムナー考 木の精が家の神になる』赤嶺政信著 榕樹書林・1080円

 「キジムナー」は沖縄の人々に最も馴染み深い妖怪だろう。従来もさまざまに紹介されてきたが、赤嶺政信さんの「キジムナー考」は、民俗学の立場からこの「キジムナーは何モノか」と、この妖怪の本質をあぶり出す。ただ、赤嶺さんも言うように民俗学は「この妖怪談の真偽を解明する」のが目的ではない。実際に語られてきた多くの例から、人々がどのような心持ちでこの怪異談を語り伝えてきたかを究明するのだ。

 本書は学術論文でありながら、複雑にからみあう伝承をやさしくひもといて、探究の面白さを伝えてくれる。30年近くこのテーマを地元沖縄で追い続けてきた民俗学者ならではの視点と情報が提供される。キジムナーに類する妖怪には、沖縄県内だけでもキジムン・ブナガ・ブナガヤなどの地域呼称があり、また奄美のケンムンなども共通する性格を持つ。

 多様な性格が語られるなかで特筆されるのは、本書がキジムナーの本性が「木の精」だとする指摘だ。ガジュマルなどの老木に住み、人間を助けて富を与える。特に家を造るのを手伝って山から材木を運ぶ要素を取り上げ、人間が縁を切ると野山に住んで悪さをする妖怪になると伝えている点に注目する。

 本書の後半では、従来キジムナーに類する妖怪談がないとされていた八重山諸島に同様の観念があったことが示される。それは家の新築時の儀式に「中柱」にしばられ、まつられる「ユイピトゥガナシ(結人がなし)」などと呼ばれる木の精霊だ。具体的には木の棒に茅(かや)を束ねただけのもの。家を造るには、樹木を切り倒して柱とし、刈ってきた茅で屋根をふく。いまだ野生の自然のまま危険な状態にある木や茅の精霊をなだめ(馴(じゅん)化(か)して)まつられたのが、新築の「家の神」なのだということを発見するのである。この例から逆に沖縄本島のキジムナーの性格が照射される展開には、謎解きの醍醐味(だいごみ)を感じさせてくれる。

 本土の座敷わらしや河童(かっぱ)などの妖怪談にも共通する、自然と人間の微妙な緊張関係がダイナミックに解き明かされるのが本書の魅力だろう。

 (神野善治・武蔵野美術大学教授)

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 あかみね・まさのぶ 1954年南風原町生まれ。筑波大学大学院修士課程地域研究科修了。琉球大学人文社会学部教授。文学博士。専門は民俗学。著書に「歴史のなかの久高島 家・門中と祭祀世界」など。

 

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