紅イモバイオ苗生産 ナンポーが契約農家に無償配布 品質優れ、所得増促す


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バイオ苗を生産するナンポーの比嘉永彦氏(右)と比嘉睦子氏=4日、那覇市曙

 紅イモタルトを製造、販売するナンポー(那覇市、安里睦子社長)は、紅イモの苗を培養してバイオ苗を生産し、契約農家10軒に無償で配布している。同じ苗を繰り返し栽培して色や収穫量が減退する連作障害を防ぎ、農家の収入増加と菓子作りに必要な高品質のイモを確保する取り組みだ。バイオ苗で新たな苗に更新を促し、収穫量は1.5~1.8倍程度に増加した。イモのサイズや色味も向上させて農家の生産意欲を後押しし、ナンポーは菓子開発を通じて農家と共に発展を見据えている。

 バイオ苗の研究は2010年に始めた。企業が独自に同様の研究をするのは珍しく、農家に提供できるまで4年の歳月がかかった。

 苗の生産は、植物が活発に細胞分裂する「成長点」を切り取り、養分を含ませた寒天を入れたビーカーの中で育てる。伸びたものを切り分けて株を増やした。生産した苗は実際に育て、通常の苗と比べた成長度合いや収穫量を慎重に分析して実用化した。

 連作障害で品質が落ちると、菓子作りにも影響が出る。「味や色が落ちれば、最終的にお菓子に関わってくる。原材料を足して調整しないといけなくなる」と安里社長。観光業が好調に伸びて紅イモタルトに代表される土産菓子の需要が高まる半面で、原料になるイモの供給が追いつかない状況に陥った。少しでも生産量を増やそうと、同じ苗でイモを生産する農家も増え、収穫量の減少や色が薄くなるなど連作障害につながったと考えられる。

 バイオ苗は伊江島とうるま市宮城島の計10農家に無償提供している。ナンポーが仕入れるイモペースト全体の8割に上る量だ。配布したバイオ苗で生産したイモは、単収(10アール当たりの収穫量)が1.5~1.8倍ほどに増加し、イモのサイズも大きくなった。デンプン質や粘着性にも優れて、加工する工場にも好評だ。

 バイオ研究と品質管理を担当する比嘉睦子氏は「ぱっと見て、色の濃さや香りも違う。安定した品質になっていると、バイオ苗を出して良かったと感じる」と語る。バイオ担当の比嘉永彦氏は「またバイオ苗を増やすぞ、という気持ちが湧いてくる」と満面の笑みを見せる。

 バイオ苗には創業者の安里正男会長の思い入れもある。かつてペーストが余って仕入れ量を抑えた時、安里会長から「農家が手塩にかけて作った物を余らせるな。別のお菓子を作って世に出せばいい」とげきが飛んだ。イモの品質が下がれば、農家の所得や生産意欲にも関わると心配する。農家出身の安里会長は生産現場への思いも強く、生産性を高めるバイオ苗はナンポーにとって大切な取り組みだ。

 安里社長は「農家を大切にすることが菓子作りの第一歩。農家さんと共にナンポーも成長していく」と力を込める。
 (大橋弘基)