『魂(マブイ)の新聞』 沖縄戦継承の足跡詳記


社会
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『魂(マブイ)の新聞』藤原健著 琉球新報社・2500円

 かつて新聞が戦争に加担したという反省から、戦後の「琉球新報」と「沖縄タイムス」の記者たちは、先輩たちが報道し得なかった沖縄戦の実相を、体験者の証言や資史料をもとに記録し続けてきた。とくに「琉球新報」は戦後60年を機に、2004年7月から翌年9月まで、「いまの情報、視点」で「沖縄戦新聞」を連載した。

 本書は、その「沖縄戦新聞」の「意味と意義」を柱に据えて、「琉球新報」「沖縄タイムス」に掲載された沖縄戦関連記事をすべて精査し、戦後沖縄の新聞ジャーナリズムと沖縄戦報道を丹念に分析することによって、記者たちの沖縄戦継承の足跡を立体的に詳記した渾身(こんしん)の一冊である。とりわけ「当事者」性を担い、「沖縄戦新聞」に精魂を傾けた「非体験者」としての記者たちの“魂”に迫り、「二度と戦争のためにペンを執らない」という覚悟と決意を獲得していく過程は、真摯(しんし)に読者に向き合おうとする記者たちの気迫さえ感じさせる。著者のリスペクトが満ちあふれた健筆ゆえんだろう。

 毎日新聞大阪本社の編集局長を務めた著者は、定年後、居を沖縄に移し県内の大学院で本書の基になる論文を書き上げた。同じジャーナリストとして、実直なまでに沖縄の記者たちに学ぼうとする著者の心象は行間に深く刻まれ、さらに「継承の『かたち』」と題して記述された、ひめゆり平和祈念資料館の若い説明員たちへのインタビューを通して、沖縄戦継承の展望へとつなげている。

 本書で特筆すべきは、「沖縄戦新聞」(全14号)の見出しを全て掲載していることと、1945年7月26日の「ウルマ新報」にはじまる「琉球新報」「沖縄タイムス」の、沖縄戦関連の企画連載記事を、日付入りの年表として紹介することで、資料的価値を高めていることである。

 軍事主義に突き進む安倍政権のもと、沖縄はかつての「本土防衛」よろしく、再び「日本国民のために」犠牲を強いられようとしている。今こそ「沖縄戦」を再考し、戦後世代の果たすべき役割を確認する意味で、本書に学ぶことをおすすめしたい。 (宮城晴美・沖縄女性史家)

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 ふじわら・けん 1950年岡山県生まれ。74年毎日新聞入社。大阪社会部長、大阪本社編集局長、スポーツニッポン常務取締役などを経て2016年、沖縄大学大学院入学(現代沖縄研究科沖縄・東アジア地域専攻)。琉球新報客員編集委員。