『奄美の相撲 その歴史と民俗』 大和式への変化を分析


社会
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『奄美の相撲 その歴史と民俗』津波高志著 沖縄タイムス社・1944円

 沖縄には土俵がなく、砂の上で初めに対戦相手の帯をつかみ、あおむけに背中をつければ勝ちという沖縄相撲がある。それに対して対戦相手とは離れて仕切り、土俵の外に相手を出すか体の一部を土につければ勝ちという大和相撲がある。今では奄美全域で大和相撲だけになっているが、徳之島、沖永良部島、与論島を合わせた南奄美では戦後間もなくまで沖縄相撲であった。本書は近世以降の歴史と現在の民俗の両面から奄美の変化を浮き彫りにしている。

 話を聞かせてくれた話者の性別、年齢、実体験か、確かな伝承か、単なる言い伝えか、といった情報が丁寧に記述される。研究史の検討を踏まえており、学術書の趣があるが、本書は著者の博士論文の一部を大幅に増補したものである。

 検証は多岐にわたり、相撲を取る場に関しては、数センチほど足が沈み込む砂を使うもの(砂俵)がもともとの形としてあり、俵の外枠を土で固め俵の内側に砂を入れ込むもの(土砂俵)、それから突き固めた土俵に行きついたものまで変化がみられる。

 そして、2回相手を倒せば勝ちとする3番勝負から、1回だけで勝負を決するルールに変わり、決まり手を含む変化の総仕上げは1972(昭和47)年の県民体育大会への参加であった。

 一方、こうした広域相撲とは別に、個々の集落で行われる相撲には独特の雰囲気がある。大和村大棚の豊年祭では祭祀(さいし)を主導する女性神役たちは土俵への道すがら清めの塩をまき、また土俵の周辺と土俵そのものにも念入りに塩をまく。それが終わらないと奉納相撲が始まらない。大和相撲を先入観として持っていると、意外な驚きが各所にちりばめられており、多くの写真が理解の助けとなっている。 話者に限らず実名で記し、出典を明確に示すことによって資料の信頼性を確保し、著者の年来の主張のままにまず現在の状況をしっかり押さえることに重きを置いている。想像を膨らませると本書の事例からさまざまな物語が展開しそうであるが、著者はそれを一切排除している。民俗調査と報告、それに基づく分析と史料批判はこうあるべきであると示している。

(古家信平・筑波大学名誉教授)

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 つは・たかし 1947年生まれ、名護市出身。東京教育大学文学研究科博士課程単位取得退学、2012年に琉球大学法文学部教授を退官。琉大名誉教授。著書に「沖縄側から見た奄美の文化変容」など多数。

 

奄美の相撲─その歴史と民俗
津波 高志
沖縄タイムス社 (2018-11-27)
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