県民投票・首長抵抗 迫る期限 政局の様相 県政与党の判断 焦点


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県の謝花喜一郎副知事(右奥)に県民投票の全市町村実施を求める「辺野古」県民投票の会の請求代表者(左奥)ら=7日、県庁

 辺野古埋め立ての賛否を問う県民投票の全市町村での実施に向け、玉城デニー知事は9日に宮古島市を訪れ、下地敏彦市長に協力を要請する。玉城知事が投票事務を拒否する首長と直接相対するのは初めてで、県民全体の投票参加について「誰一人取りこぼさない」という姿勢を示す考えだ。だが保守系の勢力が強い市議会と首長が一致して県民投票に抵抗する状況は政局の様相を強めており、2月24日の投票実施のタイムリミットが近づく中で、全市町村実施の可否や代替策について県政与党の判断も焦点になっている。

 8日、那覇市内で開かれた自民党県連の新春の集いであいさつした下地市長は「宮古島ではまず総務財政委員会で否決され、本会議でも否決された。再議にかけても否決した。議会の意思が駄目だということを示した。議会の意思を尊重するという形で進めている」と県民投票に言及した。自民党の議員や支持者を前にして翌日に予定される玉城知事の宮古島入りをけん制した格好だ。

保守系が不参加

 保守系市長の相次ぐ不参加表明に、県幹部は「議会は議会、首長は首長の立場で判断するのが二元代表制だろう。県民投票の実施は市町村の義務ということを理解してもらうしかない」と表情を曇らせた。

 住民基本台帳に基づき「選挙人名簿」を登録・管理しているのは市町村の選挙管理委員会のため、現状では市町村の協力がないと県は投票資格者を把握することができない。

 7日に県庁で謝花喜一郎副知事と意見交換した「辺野古」県民投票の会のメンバーからは、県民投票条例を改正し、投票資格者名簿の作成や投開票所の設置について県が代行する対応策についても選択肢の一つとして意見が出された。

 ただ、条例の改正を県議会で可決した上で、県が実施の準備に取り組むとなると、準備に時間がかかるため2月24日の投開票日を遅らせる「政治決断」を迫られる可能性が高く、検討は慎重だ。

 県幹部の一人は「住民投票が制度として地方自治法に定められていながら、市長が事務を拒否すると県が簡単には代行措置も取れないという、法整備の際に想定されていない事態が起きている」と指摘。「法律に沿って事務を行うよう徹底して首長に実施を求める。県民全員が投票によって意思表示ができるために民主主義の産みの苦しみだ」と言い聞かせた。

揺れる県政与党

 県民投票条例を可決した県議会でも、全市町村での実施を貫くべきかや、県が直接投票事務に乗り出す条例改正をすべきかを巡り、揺れ動き始めている。

 与党会派の県議の一人は、県が市町村の事務を代行するため条例を改正しても、投票資格者の確定に必要な選挙人名簿の閲覧を断られる恐れがあるとして「条例改正する意味が見いだしにくい。宮古島、宜野湾、沖縄、うるま、石垣の5市長が投票を実施しなくても、このままやるしかない」と苦渋の表情を浮かべた。

 別の与党幹部は「県民投票は県条例で定められており、首長が堂々と条例違反するなんて法治国家としてどうなのか」と切り捨て、住民有志による自主的な「住民投票」も視野にあることをちらつかせて5市をけん制する。ただ、自主的な住民投票は県条例に基づく正式な投票とは認められないため、あくまで全市町村での実施を期待する。

 一方、条例の審議段階で選択肢を4択に増やした修正案を提出した自民、公明の両党は静観する構えを崩していない。「今さら条例の修正が出ても乗る必要はない」(自民県連幹部)との意見が根強く、改正案が提出されたとしても全会一致となる可能性は低い。
 (与那嶺松一郎、山口哲人、吉田健一)