「殺す」
「死ね」
知らない人からの「殺害予告」がツイッター(短文投稿サイト)上で続々と書き込まれた。直接送られてきたメッセージには死体の写真が添付され「お前の未来だ」とも書かれていた。
関西地方に住む30代の女性はウェブサイト「netgeek(ネットギーク)」で記事にされた後、ネット上で激しく中傷された。被害はネットの世界だけにとどまらなかった。
新たに働こうとしている職場に報道機関名を名乗らない「取材」の電話があった。「そちらで働こうとしている人について、どう思うのか」。中傷のもととなった出来事を引き合いに出した嫌がらせの電話だった。電話に応対した人が報道機関名を尋ねたが答えなかったという。サイトで発信された1本の記事によって、平穏な生活は音を立てて崩れた。
女性が記事にされたのは、飲食店で起きた出来事をツイッターで投稿したことが発端だ。発信した内容については賛否両論あり、当初は両方の意見が書き込まれていたという。
女性の書き込みから約1週間後、ネットギークがこのことを記事にした。記事の中で、女性がツイッターで過去に発信した投稿から本人の写真が無断で掲載され、現政権に批判的な発言や行動について揶揄(やゆ)された。その直後、ツイッター上の書き込みは罵詈(ばり)雑言や中傷的な内容であふれた。
女性は「人に言えないようなことをしているつもりは全くない。ネットギークに苦情を言おうとしても、サイトの連絡先もなく、どこにものを申していいのか分からなかった」と語る。
女性が記事にされて随分たったが、現在も中傷は続いている。
ネットギークは、県内で基地建設に反対する人々を中傷し、揶揄する記事を量産してきたサイトだ。このサイトは個人も「標的」としていた。SNS(会員制交流サイト)などで探し出した個人に攻撃的な記事を書くことによって、サイトの閲覧者数を増やしてきた面もある。
東京都内に住む40代の男性もネットギークの記事で中傷を受けた被害者だ。この男性は事実と異なる情報とともに、顔写真と本名を記事でさらされた。「載ったと知ったときは冷や汗が出た」と男性は両手を握りしめながら振り返る。
接客業をしており、事実ではない苦情が働いている店舗に寄せられたこともあった。人が集まる場所に行くと「中に記事を読んだ人がいるのではないか」と恐怖を感じた。知らない人から中傷するメールが届いたこともあった。
男性は「からかいがいのある人をさらして攻撃している。(サイトの)読者は自分より弱い人で憂さ晴らしをしている。彼らは誰かを攻撃することで、自分が強者だと確認しているのではないか」と話す。
ネットギークに対し、名誉毀損(きそん)で訴訟を提起する動きが出ている。原告らは2月にも記者会見を開いた上で、このサイトを訴える予定だ。
訴訟の中心となっている男性は、取材に対して「ツイッターで『獲物』を見つけると、その人の過去の投稿やフェイスブックをあさる。そして、その中のいくつかをつないで、意図的に『非常識な人』『左翼活動家』という具合にでっち上げる。実際には活動家でもなんでもなく、(ネットギークの記事は)悪意に満ちたデマだ」と指摘する。
姿を隠して攻撃的な記事を発信し、収益を得てきたサイト「ネットギーク」の運営者。その姿勢は法廷で問われることになる。
(ファクトチェック取材班・池田哲平、安富智希)