『焦土に咲いた花』 芸人の軌跡から「民心」探求


社会
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『焦土に咲いた花』琉球新報社 編著/取材と文 伊佐尚記・大城徹郎 琉球新報社・1080円

 本著は、琉球新報社芸能担当記者による連載をまとめたものだが、たんなる芸能レポートではない。戦争に翻弄(ほんろう)された芸人たちの「命の軌跡」をたどることで、沖縄の「民心」を探求した精神史ともいうべき労作である。あの焼け野原から芽吹いた琉球芸能の「花」はどのようにして咲いたか。本著は、専門家をもしのぐ丹念な取材と考察でそれに応える。

 1930年代に旗揚げした「珊瑚(さんご)座」の真境名由康、玉城盛義の「真楽座」に集った役者たちで築いた黄金期から一転、戦争前夜戦中のうちなーぐちの禁止、検閲、という困難の時代にもユーモアと機転で切り抜けた「芝居士」たちの語りは、まさに芝居の世界。「沖縄のチャップリン」の異名をもつ小那覇舞天の「戦争を笑う」漫談。砲弾の中を三線や琴工工四を抱いて逃げた幸地亀千代と仲嶺盛竹。名曲「懐かしき故郷」を作詞作曲し、「マルフクレコード」を立ち上げ戦後のシマ唄界をけん引した普久原朝喜。シベリア抑留の地でもカンカラ三線で「浜千鳥」を唄い捕虜たちを慰めた宮里春行。「南洋小唄」の作詞作曲で知られる比嘉良順のロマンに満ちた謎の人生。それらの印象深いエピソードが芸が生活そのものであった芸人たちの譲れない世界観を描き出す。

 艦砲射撃の下でも、芸こそ命だ、と演じることを止めない気概は、抑圧されても抑圧されても平和への希求を願う今日の沖縄の抵抗運動にもつながる「うちなーんちゅの精神」の根を見るようで、誇らしい。

 巻頭に並べられた米軍によって終戦直後に撮影された、カラーの舞台写真に残る伝説化しつつある名優(我如古安子、宮城能造、親泊興照…)らの姿には、気品と美しさがある。身にまとった衣装は食料袋などでこさえた間に合わせのものだというが、高価な衣装でどこかガマクの抜けた舞を観(み)せられることの多くなった昨今の舞台との違いを思う。芸の心を取り戻すためにも全ての芸能人たちに是非一読してほしい一冊である。

 (崎山多美・小説家)

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 琉球新報で2015年6月10日~17年2月15日の連載に、18年10月31日~11月21日の番外編を含めた78回分に加筆・修正した。執筆者は文化部・伊佐尚記記者と、文化部、整理部などを経て2018年に退社した大城徹郎記者。

 

琉球新報社編著
A5判 184頁

¥1,000(税抜き)