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『消された精神障害者』 隔離と差別が尊厳奪う

『消された精神障害者』原義和著 高橋年男解説 高文研・1620円

 『消された精神障害者』―。この書名が本書の全てを表している。文字と写真に込められたメッセージはズシリと重い。沖縄県を中心に、精神障害者の過去と現在の実相が如実に描かれている。同時に辛(つら)い過去に目を背けることなく、現状を打開しなければとする筆者の熱くも深い叫びが聴(き)こえてきそうだ。

 日本の精神障害者の処遇は、近現代を通じて一貫して隔離監禁を基本としてきた。この隔離こそが、精神障害者に対する差別意識の温床となり、差別はまた新たな隔離を生んでいった。つまり、隔離と差別は互いに相手を刺激しながら、病にある者の自由と尊厳を奪っただけでなく、精神障害者に対する負のイメージを色濃くしてきた。

 隔離政策には、大きく二つの形態がある。一つは、本書が主題としている私宅監置であり、精神科病院での長期入院がもう一つだ。時系列でみれば、私宅監置を禁止した1950年制定の精神衛生法を潮目に、それ以前は私宅監置が、以降は長期入院がその首座を占めている。

 ところが、沖縄は異なっていた。多くの分野がそうであるように、戦後独特の道を歩まされたのだ。精神衛生法の恩恵に浴することなく、新設の琉球精神衛生法の下で私宅監置政策は継続された。

 私宅監置とは、その俗称を「座敷牢(ろう)」「監置小屋」などとし、障害者を住居の一隅もしくは屋敷内の物置や小屋などに長期に閉じ込めておく状態をいう。1900年の精神病者看護法の制定で、精神障害者を社会から遠ざけようとする社会防衛策の一環として合法化されたものであった。

 本書には、離島を含む沖縄の幾人もの事例が紹介されている。大半はすでに他界している。しかし、遺族を含む関係者の証言と、何より筆者の当事者性を重んじようとする姿勢が、犠牲者の無念さとともに、問題の本質をリアルに伝えてくれている。

 精神障害者への隔離政策は続いている。座敷牢状態も散見される。社会と心に潜む闇に向き合ううえで、消されたもう一つの沖縄を知るうえで、掛け替えのない著となろう。

 (藤井克徳・NPO法人日本障害者協議会代表)

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 はら・よしかず フリーテレビディレクター。1969年愛知県生まれ。2005年から沖縄を拠点にドキュメンタリー番組の企画・撮影、演出を手掛ける。 たかはし・としお 沖縄県精神保健福祉会連合会事務局長。

 

編著:原義和 解説:高橋年男
四六判 224頁