「被害者を愚弄」 住民、田中沖縄防衛局長発言憤る 嘉手納爆音「人体への影響 立証なし」 訴訟判決は被害一部認定


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田中利則沖縄防衛局長

 【中部】米軍嘉手納基地から派生する航空機の騒音被害について、沖縄防衛局の田中利則局長が「瞬発的で、人体への影響は科学的に立証されたものではない」と繰り返し発言したことに対し20日、嘉手納爆音訴訟の原告や周辺住民からは失望と憤りの声が噴出した。田中局長が科学的根拠を否定した騒音による健康被害は、2017年の第3次嘉手納爆音訴訟で一部認める判決が出ている。

 「まるで爆音くらい我慢しろと言っているようなものだ」。第3次嘉手納爆音訴訟原告団の平良真知事務局長(68)は騒音被害に苦しむ県民に対し無責任で侮辱する発言だと憤る。人体への影響を繰り返し否定した点に触れ「補償に値しないというのが本音だろう。防衛局長の任務を果たす気などないはずだ」と批判した。

 一方、嘉手納基地の滑走路近くに住む仲本兼作さん(45)=嘉手納町=は、基地からの騒音による健康被害は「国内での裁判や研究者らによる調査は、まだ完全な立証には至っていない」と一定程度の理解を示す。だが、自身は長年爆音にさらされてきたため2年前に片耳が騒音性難聴だと診断された。「他にも耳が痛む人や精神的苦痛を訴えている人はたくさんいる」と訴える。県民に寄り添う姿勢とはほど遠い防衛局長の発言に「被害者を愚弄(ぐろう)している」と憤った。

 田中局長の発言は19日、米軍の運用実態や航空機騒音で抗議する北谷町議会の代表団との面談の場であった。

<識者談話>科学を否定 無知な発言/松井利仁・北海道大教授(環境衛生学)

松井利仁・北海道大教授(環境衛生学)

 世界保健機関(WHO)が1999年に公表した「環境騒音ガイドライン」以降、騒音による疾患に関する研究結果が出ている。防衛局長の発言は科学を否定する無知な発言だ。

 嘉手納基地では、騒音防止協定違反の夜間も複数回の騒音が確認されている。2009年のWHO欧州事務局の「欧州夜間騒音ガイドライン」によると、夜間騒音は環境基準値(Lnight)が40デシベルから健康へ悪影響が出るとしている。

 国際的な診断基準によれば、睡眠障害とは入眠に時間がかかったり、夜間や早朝に目が覚めたりして、日中に眠気や集中力が低下する症状が出ることだ。WHOは騒音による睡眠障害が心疾患の要因であることも認めている。主要な環境要因のうち、大気汚染の粒子状物質に次ぎ、騒音が死亡や病気のリスクが高めるという報告もある。

 防衛局長の発言は、基地周辺地域で騒音がどれだけ人体に影響を及ぼすかを知らないとしか思えない。