持続可能な水利用とは? 島の課題ゲームで学ぶ 多良間小「水の環」教室開催


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水の環プロジェクトが作ったボードゲーム「すいまーる~渇水に負けるな!たたらんちゅ」で水の使い方を考える多良間小の5年生=1月29日、多良間村の同校

 子どもたちが社会参加する力を育てることを目指す琉球新報と沖縄キリスト教学院大学の共同企画「沖縄から育む市民力」。今月は、琉球大学の研究者らが地域と共に水問題の解決を目指す「水の環(わ)プロジェクト」(代表・新城竜一理学部教授)が多良間村の多良間小学校と1年かけて取り組んだ総合的学習「ナゼ? ホント? 多良間は科学の宝島!」を紹介する。

 多良間島は水道水は全て地下水から取り、持続可能な水の利用は地域の重要課題だ。同校は4年生から地域の水について学んでおり、同プロジェクトには5年生10人が総合学習の時間を使って参加した。

 児童らは昨年9月から今年1月にかけ(1)島を構成する石灰岩(2)島の地下水(3)石灰岩を作るサンゴや有孔虫―をフィールドワークと実験や観察で学んだ。1月29、30の両日には、実際の水の使い方を考えようと、ボードゲームで授業を進めた。

 授業は、ゲームを考案した琉球大学博物館(風樹館)の島袋美由紀さんが中心に進めた。ゲームの舞台は、多良間島に似た架空の「たたら島」。漁業、畜産業、農業、民宿を営む島民が地下水を活用し稼いだお金の額を競う。水が枯れると島に人が住めなくなるのでゲームは終了。月ごとに台風や日照りなど天気は変わり、送水管の故障、祭りで観光客が増えるなどの出来事も起こる。子どもたちはゲーム盤を囲んで「やばい、水がなくなる」「台風、よっしゃー!」などと盛り上がった。

 大きなポイントは前後半でルールが変わることだ。前半は島内の職業間で稼いだ額と水の残量を競う。職業間で相談は禁止で隣人はいわば「敵」。後半は三つの「たたら島」を設定し、島間で競う。島内の職業間は相談も協力も可能で隣人は「仲間」に変わる。

 前半は途中で水がなくなりゲームオーバーに。ルールが変わった後半、子どもたちは「あっちから水を取ればいい」と助言したり「自分は取らないでいい」と譲ったり。島の生き残りへ知恵と力を出し合った。どの島も水を絶やさずゲームは無事終了し、前半より多くのお金を稼ぎ上げた。

 後半の大成功から伊藤秀一さん、嘉手苅一葉さんは「協力すると勝てた。協力は大事」。渡口怜羅さん、濱川悠伍さんは「地下水がなくなると島に住めなくなることが分かった」と実感した。建川雅仁さんは人々の協力態勢を引き出したルールに着目し「(水の使い方を定めた)島の規則は村長と議会で決めていることが分かった」とし、ルール作りにも関心を寄せた。

 科学的な島の成り立ちから社会の仕組みまで、総合的な学びを深めるまでには綿密な準備があった。琉大と多良間小の関係者は昨年度から互いに行き来して研修会や打ち合わせを重ね、小学生の理解度から言葉使いまで議論した。

 担任の山本萌美教諭はこの授業の数日前から「畜産農家はどんな水の使い方をする?」「漁業者は?」と具体的な使い方を宿題で調べさせた。子どもたちはその職に就く親などから聞き取り、畜産では「生まれた子牛を拭いたタオルを洗う」(安里真一さん)、農業では「機械に付いた土を洗い流す」(西筋陽斗さん、伊良皆望愛さん)などとリアリティーあふれる例を挙げ、生活に基づく学びを豊かに展開した。

 年間を通して、教科書にはない、地域独自の自然も学んだ。清村一生さんは「多良間島は琉球石灰岩でできていて、日本列島のように何層もの地層ではない」。垣花優里さんは「地下水のない島はどうやっているのか知りたい」と広い世界へ視野を広げた。


自然、科学的に理解を

島袋美由紀さん(琉大博物館)

 

島袋美由紀さん(琉大博物館)

 人間は自然の恩恵を受け、その上に社会を作って生きている。持続可能な社会を考える基礎に、自然を科学的に理解する必要がある。ただ大学の「知」を地域に還元するにも、大学の授業そのままでは伝わらない。地域と大学をつなぎ、伝わりやすく「翻訳」することが自分の仕事。地域、研究者と話し合いを重ねて一緒に授業を作ってきた。

 プロジェクトの核は、地域の自然を知り「びっくりした」「もっと知りたい」との気持ちを引き出すこと。一連の授業で島を構成する岩石や地下水について科学的な背景を知った上で、今回は住民が協力して水を使うことや社会のルールについて、ボードゲームを通して考えてもらった。

 「水は大事だから使わない」では意味がない。水を使って暮らし、お金も稼がなければ地域は成り立たない。現実問題として共有の財産としての水をどう使うか。科学的な背景を踏まえ、現実を考える装置となるゲームだ。

 子どもたちは話し合い、協力したり譲り合ったりして持続可能な水の使い方を考えていた。楽しみ、イメージしながら考えられるのがゲームの良さであり自ら考え、行動する人への一歩になったのではと思う。