芸能・文化

『新しいアジアの予感』 沖縄見詰め直し、世界へ

『新しいアジアの予感』安里英子著 藤原書店・3024円

 生まれ育った首里しか知らない。自分の目で沖縄をよく見てみたい。その思いで著者は沖縄の島々、村落を旅し、「沖縄を再発見する」。見る対象は「久高島の土地憲章」「奥の共同売店」「名護の逆格差論」「巨大開発と公共事業」「リゾート開発と島々」など、沖縄を語る上で欠かせないものばかり。

 読者は知っているつもりの沖縄を改めて著者の目で見直し、そこに共同体が直面している課題と未来への展望を見いだすであろう。多様な沖縄を再発見する可能性がそこにある。

 女人禁制の仏教が庶民に根付かなかった琉球では、女性が祭祀(さいし)の中心であり、聖域は男子禁制であった。文化の基層が本土とは明らかに異なるのだ。薩摩侵略以降、琉球王朝の支配層を中心に男性原理が発生してきた経緯も興味深い。

 そして著者の目は、ヤポネシアの北と南を結び、琉球文化からみたアイヌ民族、台湾先住民文学、朝鮮詩集へと広がっていく。アイヌ語研究の金田一京助と沖縄学の祖伊波普猷の交流、武田泰淳や池澤夏樹らのアイヌ文学、琉球諸島に通じる習俗を持つ台湾先住民文化、そして朝鮮・石垣島のわらべうたなど。

 詩集「神々のエクスタシー」で第40回山之口貘賞を受賞した著者の「朝鮮詩集」についての語りは秀逸だ。

 また「アイヌ、琉球、台湾の歴史に共通するのは、日本語によってそれぞれの民族の言葉を否定された経験をもつことである」というくだりは、日本語を母語とする評者にとっては恥じ入るばかりだ。

 かくして著者の目は「琉球から世界へ」と向かう。今、「徴用工問題」などで日韓政府間関係は最悪の状況にあるが、沖縄は先の戦争の犠牲者であると同時にアジアの人々に対しては加害者である。その歴史を直視することの先に著者は「新しいアジア」を予感している。

 沖縄に徴用された「朝鮮人軍夫」の問題に自ら取り組んでいる著者の発言は重い。

 (桜井国俊・沖縄大学名誉教授)

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 あさと・えいこ 1948年那覇市首里生まれ。ライター。90~97年に琉球弧の島々をまわりリゾート開発をルポ、御嶽、聖域を取材。91年「揺れる聖域」で第5回地方出版文化賞次席。98年第2回女性文化賞。詩集「神々のエクスタシー」で第40回山之口貘賞受賞。

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