『島嶼学 Nissology』 経済の特性、沖縄重なる


社会
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『島嶼学 Nissology』嘉数啓著 古今書院・4104円

 前著『島嶼(しょ)学への誘い』で、昨年度の伊波普猷賞を受賞した著者が、その続編ともなる本書を刊行した。

 章立ては、第1章から順に、島とは何か―島の定義・方法論・分類―、島嶼社会経済の特性と可能性、島嶼型サステイナビリティモデルを求めて、「島嶼型」グリーンテクノロジー、島嶼社会経済のネットワーク、島嶼における文化と観光―バリ島と竹富島の事例を中心に、国境の島をめぐる領土紛争と解決策―尖閣諸島および南シナ海諸島を中心に―、島嶼の政治経済学―島嶼経済自立への挑戦、となっている。全8章、330ページの大著である。

 世界中の島嶼を調査し、世界中の島嶼に関する文献・資料を収集しつつ、原点である沖縄の島嶼に思いを馳(は)せながら、40年余も追究してきた結果が、この本にまとめられた。

 島嶼は多様である。大きい・小さい、高い・低い、遠い・近い、暑い・寒い、そのような自然的条件のほかに、政治的・経済的・社会的な成り立ちなど、具体的に観察すれば、「島嶼」という語は一つでも、一つとして同じものはない。もちろん、著者の本来の分野である経済学だけで割り切れるものではない。その現実を踏まえつつ、しかも「学」として理論化しようというのであるから、伴う苦労は小さくない。著者は、その難題に取り組んできたのである。

 そこには多少の矛盾や中途半端さが残るのはやむを得ない。著者はそのことを自覚しつつ筆を進めている。島嶼の経済社会的視点からみた「特性」については、資源の狭小性、市場の狭小性、規模の不経済性、輸入超過経済(慢性的な貿易赤字)、その赤字を補塡(ほてん)する主要な財源が、海外送金の受取・中央政府からの財政移転受取・観光収入になること、などとして論じている。すべて沖縄と重なる。

 現今の沖縄では、経済面の好調と明るい未来を強調する論調が主流となっている観があるが、もっと足元を見て、現状をしっかり分析して議論する必要があろう。その点でも、本書は多くの示唆を与えるものと確信する。

 (来間泰男・沖縄国際大学名誉教授)

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 かかず・ひろし 1942年生まれ、本部町出身。琉球大学名誉教授、日本島嶼学会名誉会長。日本大学教授、琉球大学副学長などを歴任。主な著書に「島嶼学への誘い」(岩波書店、第45回伊波普猷賞受賞)など。

 

島嶼学: NISSOLOGY
島嶼学: NISSOLOGY

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