『沖縄県産品の労働法』 労働問題に起因する貧困


社会
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『沖縄県産品の労働法』春田吉備彦著 琉球新報社・2134円

 貧困の最大の原因は労働問題である。なぜなら富の再分配の最初は労働によるものであり、社会保障や福祉による再分配は、労働者の生活をめぐる諸問題を解決するために生まれてきた歴史的側面があるからである。

 日本で一番非正規労働者が多い沖縄で、貧困の問題が深刻なのはある意味当然なのである。本書は、貧困対策として労働の問題に本腰を入れた取り組みを求めるため、一石を投じるものとなっている。

 著者は、身近に起きている社会問題について新聞記事を活用するだけでなく、職場での何げない会話、遭遇しそうなトラブルなどを紹介し、難解な労働法のエッセンスを分かりやすく伝えることに徹している。

 例えば、ブラックバイトに翻弄(ほんろう)される学生について、労働者は使用者の指揮命令のもとで従属的に働かなければならないという労働契約の特質を示し、強制された自己決定・形式的合意ではなく、自発的な自己決定・実質的合意が図られるよう労働法がさまざまな手だてを用意していることを述べる。

 また、法律の解釈にとどまらず、戦後、米軍統治下での沖縄の医療保障制度の歴史的特質、米軍基地で働く軍雇用員が置かれている構造的問題など「沖縄」の問題を明らかにするとともに「日本」「世界」の事象を捉えるそのまなざしは、時折交える独特なユーモアとは対照的に、奥深く複眼的であり普遍的である。

 著者は、子どもの貧困の解決が叫ばれている沖縄において、大人の貧困の解決が不可欠であり、「子ども食堂」などの対症療法的なアプローチだけではなく「雇用社会」と「生活社会」をつなぐ、「労働法」と「社会保障法」をパッケージとした長期的・総合的な法政策の重要性を指摘する。それは貧困が個人の怠惰や自己管理の問題ではなく、労働に起因する社会問題だと明らかにすることに他ならない。

 「沖縄県産品の労働法」とは、資本のための商品になるのではなく、沖縄らしい、そして人間らしい道を模索すべきというメッセージであると理解した。多くの示唆を与える本書を是非手にとってほしい。(安里長従・司法書士)

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 はるた・きびひこ 北九州市出身。西南学院大学大学院法学研究科博士前期課程修了(法学修士)、中央大学大学院法学研究科博士後期課程修業年限終了。2009年より沖縄大学教授。労働法・社会保障法が専門。

 

春田吉備彦著
A5判 264頁

¥1,980(税抜き)