『島の鳥類学』 画期的な科学のアンソロジー


社会
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『島の鳥類学 南西諸島の鳥をめぐる自然史』水田拓・高木昌興共編 海游社・5184円

 南西諸島(琉球列島と大東諸島、尖閣諸島)には、多様性に富む鳥類が生息し、固有種・固有亜種が少なくない。バード・ウオッチャーや研究者の関心が高く、鳥類の記録も古くから蓄積されてきた。

 本書では、28人の研究者が、南西諸島の鳥類相や系統分類、分布、21の種・亜種の生態や行動など、最新の研究成果を詳しく解説している。

 今は小型で高性能の調査機材が使われ、データの統計処理も高度になり、系統分類にはDNA解析が大きな役割を果たす。また、長期の調査で多くのデータを収集・解析し、論理的に考察する研究者の努力と熱意が、昔の調査では不明だったことや新たな事実を明らかにしている。

 なぜ、リュウキュウオオコノハズク、リュウキュウコノハズク、リュウキュウアオバズクが生息する島としない島があるのか。リュウキュウコノハズクの鳴き声はなぜ、島によって異なるのか。どうしてトカラ列島のアカヒゲは渡りをするのに、沖縄島のホントウアカヒゲは留鳥なのか。ダイトウメジロの営巣場所選びは何のためか。などなど、地殻変動や氷河による海面変動で大陸との分離・結合を繰り返して成立した亜熱帯の島々に棲(す)む鳥類の種分化や生活史について興味は尽きない。

 編者はこれらの研究事例を、現在と過去の鳥類相、分布と生態の関係、島に特徴的な生態と行動、保全の科学的アプローチの4部に分けている。それは、琉球列島での研究が、日本列島の島々をも含む「島の鳥類学」として、日本の鳥類学の方向性を示すと考えているからだ。

 その意味で、画期的で野心的な科学のアンソロジーだと言える。また、研究成果の地域への還元であると同時に琉球弧の文化への貢献にもなっている。

 しかし、研究者が愛した鳥たちの棲む島々では、軍事基地建設、大規模公共事業で自然破壊が進んでいる。世界自然遺産の推薦範囲も不適切だ。研究者たちが南の島の鳥たちのために行動することを期待したい。

 (花輪伸一・沖縄環境ネットワーク世話人)

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 みずた・たく 京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了。環境省奄美野生生物保護センター自然保護専門員。たかぎ・まさおき 北海道大学大学院理学研究院教授。

 

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