『大学による盗骨』 植民地主義的無責任問う


社会
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『大学による盗骨』松島泰勝・木村朗編著 耕文社・1944円

 編者の一人、松島泰勝氏は昨年『琉球 奪われた骨』を岩波書店から上梓(じょうし)したが、本書では木村朗氏とともに24人の執筆者を糾合して「大学による盗骨」の驚くべき時間的・空間的広がりを浮き彫りにしている。

 つい2年前にも日本人類学会会長篠田謙一らがアイヌ民族頭骨の歯から「ミトコンドリアDNA」なるものを抽出して「民族の起源」を解明する研究を発表したという。

 さらに、琉球と同様に「青い海が見渡せる、心地よい風葬」(原井一郎氏)の古習をもつ奄美群島においても、遺骨が持ち出された問題が取り上げられている。空間的な広がりは、台湾・朝鮮を含めてかつて「土人」という蔑称が投げつけられた地域に重なる。

 そのことは、辺野古の新基地建設に反対する住民を大阪府警機動隊員が「土人」と呼び捨てた出来事に通底する、問題の根っこ(=植民地主義)を示している。さらに、生命への冒涜(ぼうとく)は「骨」に限られるものでもないことがわかる。京都大学のホームページでは先天性異常のヒト胚子(胎児)の「標本コレクション」を今日でも「宝の山」として紹介しているという。本書を読んで「胎児標本」の写真つきページを実際に確認して、思わず「狂っている」とつぶやかざるをえなかった。

 かくいう評者自身、松島氏らによる遺骨返還要求を何度もはねつけてきた京都大学に籍を置く「研究者」である。心と体の大半を「狂っている」世界の側に置いている。学界という狭い“ギョーカイ”の中での達成を求めて「徹底したデータ収集」を行おうとする衝動も、自分の研究の前提をなす社会関係に対して鈍感で、傲慢(ごうまん)な傾向も、これを助長する権威主義も、決して他人事ではない。しかし、だからこそ京都大学の中にあって京都大学執行部の責任を問わねばならないと痛感させられた。

 本書の読者のネットワークが京都大学を取り囲み、内部からの動きがこれに呼応して植民地主義的な無責任の厚い壁を突き崩す事態を夢見たい。

 (駒込武 京都大学・大学院教育学研究科教授)

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 まつしま・やすかつ 1963年石垣島生まれ。龍谷大学教授。琉球民族遺骨返還請求訴訟原告団長。

 きむら・あきら 1954年北九州市生まれ。鹿児島大学教員、平和学専攻。東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表。

 

大学による盗骨: 研究利用され続ける琉球人・アイヌ遺骨
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