『西表島 紅露工房シンフォニー』 植物染色の可能性追求


社会
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『西表島 紅露工房シンフォニー 自然共生型暮らし・文化再生の先行モデル』石垣昭子、山本眞人著 地湧社・2160円

 本書は染め織りを、西表の自然の中で追求し、世界に発信する石垣昭子と地域プランナーの山本眞人の共著である。

 石垣昭子さんのパートナーである石垣金星さんが、西表祖納で「紅露(クール)工房」を設立したのが1980年。西表の集落では、すでに機織りは戦前期に失われていた。工房では島の女性たちと芭蕉を植え、繊維をとり試行錯誤の日々が続く。

 石垣金星さんは、70年代に起こった若者たちによる「島興し運動」の中心的担い手であり、有機栽培米を生産する一方で、糸づくり、染色に必要な植物を工房の周辺に植え、蚕に必要な桑の栽培も始める。桑は世界のほとんどの品種を集め、西表に適した桑を見つける。蚕は木に放し飼いにするピラチカ(手のかからない)養蚕。鳥に食われないようにネットを張る。

 昭子さんは東京の女子美大服飾科を卒業後、生まれ島の竹富島に戻り島の民芸館で働く。その後、京都の志村ふくみさん(1924年生まれ・人間国宝)に内弟子として染色を学んだ。さまざまな植物を自分で採集し、植物染色の可能性を追求した。

 西表は植物の宝庫である。基本となる染料はフクギ、アカメガシワ、藍、紅露の4色。紅露は山に自生している山芋で、山の神様から分けていただく。他にヒルギもある。近くのサンゴ礁の浅瀬では「海晒(さら)し」をする。繊維は主に芭蕉と絹にしぼられてきた。絹と芭蕉を組み合わせて交布(グンボー)にする。この、交布に着目したのが世界的ファッションデザイナーの三宅一生。三宅は頻繁に西表を訪ねた。昭子さんの布が世界に紹介され、「ミモザ賞」を受ける。

 90年代には、テキスタイルデザイナー真木千秋、服飾デザイナー真砂美千代とのコラボレーションで真南風(マーパイ)ブランドを立ち上げ、主に東京やインド等で発表している。また、紅露工房で国際的なワークショップが開かれるなど世界にその種子は芽吹いている。

 一方で、地元の祭祀(さいし)の衣装も手掛けるなど、そんな島の暮らしが石垣昭子の染織の根底にある。 (安里英子・ライター)

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 いしがき・あきこ 1938年竹富島生まれ。59年女子美術短期大学服飾科卒。70年京都で志村ふくみ氏に師事。80年西表島に紅露工房開設

 やまもと まひと 47年長野県生まれ。71年需要研究所入所、95年同所代表取締役。

 

西表島・紅露工房シンフォニー 自然共生型暮らし・文化再生の先行モデル
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