『午前零時の歴代校長会議』 現実にある子どもの物語


社会
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『午前零時の歴代校長会議』金城毅著 ボーダーインク・1620円

 本書は、8編からなる子どもたちの物語である。フィクションでありながら、学校で過去に出会った子どもたちや、毎日顔を合わせている児童の姿が浮かんで来る。それもそのはず、筆者は現役の校長先生であり、書評を書いている私も学校で勤めているので、自然に小説の世界に引き込まれ、涙が溢(あふ)れたり、クスッと笑ったり、先生と児童のやりとりが今、目の前で繰り広げられているようで、読み終えたときにはさわやかな気分になれた。沖縄ならではの妖精キジムナーが登場したり、戦争が盛り込まれていたり、8編それぞれが独立しているので、読む順番も気にならない。

 最初の「ハーモニー」は、支援の必要な児童が不登校になっているが、合唱コンクールの指揮者を押しつけたからなのか、学級経営の難しさ、先生と児童のやりとり、不登校になった原因は自分にあると悩む葛藤場面、その後の展開など、「学級ってこんなだよね」って思える。学級はいろんな子がいるのがあたり前、問題が起きることで全員が成長していけるのが理想。しかしなかなか上手(うま)くいかないことも。最後のシーンは感動的。

 小説だが現実にもあり得る。「お父さんからの手紙」は、児童同士の関係性や思春期の揺れ動く心理状態が垣間見られる。保健の先生の対応と肝っ玉母さんを見習いたい。

 「だいじょうぶだよ」に出てくる担任はキジムナーの化身だったのだろうか?パワー溢れる先生は、大丈夫だよといつも背中を押してくれる素敵(すてき)な先生だ。そんな先生を目指したい。

 「フラーアンマーのどくろ」「午前零時の歴代校長会議」の2編は、戦争を扱っている物語だが、現在と過去が入り交じる。戦争で子どもを亡くした母親の奇妙な行動、何故(なぜ)フラーアンマーと呼ばれているのか。戦争で、生き残った事に負い目を感じている子どもを救うための歴代校長会議。タイトルは怖いが、平和学習に活用できそう。若い教員には是非(ぜひ)読んでほしいし、親も子どもも、昔子どもだったみんなに読んでほしい。(上原博美・高嶺小学校校長)

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 きんじょう・つよし 1958年糸満市生まれ。81年に豊見城市立上田小に採用、渡嘉敷小などに勤務。「校長室の秘密」で第20回ふくふく童話大賞。「お父さんからの手紙」で第30回琉球新報児童文学賞短編児童小説部門佳作。

 

午前零時の歴代校長会議―短編小説集
金城毅
ボーダーインク