『沖縄〈泡沫候補〉バトルロイヤル』 大手メディアの間隙縫う


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『沖縄〈泡沫候補〉バトルロイヤル』宮原ジェフリー著 ボーダーインク・1296円

 世に雑草という名の植物が存在しないように、選挙もまた“泡沫(ほうまつ)候補”と呼ばれる候補者など存在しない。草にそれぞれ名前があるように、候補者にもまたそれぞれの主義主張がある。

 昨年9月の知事選。故翁長雄志氏の後継で“オール沖縄会議”が推す玉城デニー候補と、自公が国政選挙以上に組織、資金を集約して臨んだ佐喜真淳候補の“一騎打ち”の陰で立候補した2人に焦点を当てる。

 著者の宮原ジェフリー氏は1983年東京に生まれ、琉球大学法文学部人間科学科に進み、学生時代と社会人の数年間を沖縄で暮らす。中学時代から20年以上、趣味として選挙を見てきたといい、それが高じてウェブメディア「選挙ドットコム」で情勢分析などを手がける。

 ライターは多少の推測を基に取材を始めるが、ときにそれが予測を離れどこへ行くのか分からず、迷路に立たされることもある。著者は「アナザーストーリー」と言うが、本書にとって決して本筋ではない2候補、とりわけ兼島俊氏に引き込まれて書いたと思える同氏の半生が面白い。

 小学校入学前に両親が離婚し、吃音(きつおん)に悩まされ、イジメにも遭い、内向的だった少年は、居酒屋のアルバイトで学費を稼ぎながら陽明高校を卒業。祖父が経営する中古車販売店に就職するものの、働いた1年間で売り上げ台数はゼロ。奮起して上京しバンド活動やイベント企画、アパレルブランドの共同経営などで波に乗る。しかし良いことは長く続かない。インド放浪、ネットカフェ、路上生活を経て、友人とITベンチャーを起業し、1億4千万円を売り上げるまで(ゴールではない)、いかに復活したかは本書を読んでいただきたい。

 兼島氏の金の工面が振るっている。居酒屋で独り酒を飲みながら友人知人にメールを打つと、12時間で供託金の額を優に超える700万円が集まった。

 著者は本書を上梓(じょうし)するため、ネット上で寄付を募る「クラウドファンディング」で取材費を捻出した。今風の資金調達で、今風の“泡沫候補”を、今風の“選挙ライター”が書いた大手メディアの間隙(かんげき)を縫う一冊だ。

 (友寄貞丸・ライター)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 みやはら・じぇふりー 1983年東京都生まれ。琉球大学卒。NPO法人前島アートセンター事務局などを経てフリーランスキュレーターとして活動。ウェブメディア「選挙ドットコム」のライターとして選挙の情勢分析記事などを寄稿している。

 

2019年2月発行 ボーダーインク
宮原ジェフリー著
新書判 160頁

¥1,200(税抜き)