『ヤンキーと地元』 沖縄を末端で支える


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『ヤンキーと地元』打越正行著 筑摩書房・1944円

 国道58号線を深夜に駆け抜ける暴走族とそれを見守るギャラリーたち。本書はそうしたヤンキーとかれらのその後の人生をめぐる記録である。出色なのは、著者が10年もの時間をかけて、暴走族上がりの若者が、その後、どのように働き、こどもを産んで育て、地元つながりを活(い)かしながら(あるいは断ち切りながら)生きているのかを徹底的に記述した点にある。暴走族に始まり(一章)、建設会社(二章)、性風俗店(三章)、内地へのキセツ(四章)、仲間と家族(五章)と、読者は頁(ページ)を追うごとにかれらの人生模様を追体験する。一貫しているのは、本書がヤンキーとその身辺を、けっして裏社会の出来事としてではなく、沖縄を末端で支える表社会の一領域として捉えている点だ。よって、本書は、ありがちなアングラ世界への潜入本や密着本とは、まったく立場を異にした著作である。

 キーワードは「地元」だ。深夜に爆音でバイクを疾走させるのも、建築現場で働くのも、夜の街でトラブルを防いで店を経営するのも、すべて地元で育まれた人間関係を用いることから始まる。地元とは、単にかれらが生まれ育った地区というだけでなく、その後の人生においても行動指針を与える枠組みなのだ。だが同時に、地元はこれ以上ないほどの過酷な状況を作り出しもする。何よりそこには暴力が溢(あふ)れている。しーじゃ/うっとぅ(先輩/後輩)関係は、歳を重ねても継続し、エイサーの練習でも、建築現場でも、夜の街でも、つねに暴力が控えている。男女の関係も同様だ。「くるされる」は、本書に頻出する言葉だ。だからこそ、かれらは、キセツに向かうなど、地元を見切りもする。だが内地に行っても、それは「引き合う」ものではない。

 締めの五章では、今ではどこで何をしているのかわからない人びとの聞き書きも並べられる。現在の所在はわからない。でも、かれらが著者に語った肉声は残っている。その肉声を文字にしながら、著者はそっと、かれらの今後を讃歌(さんか)として奏でているように思えた。(石岡丈昇・日本大学准教授)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 うちこし・まさゆき 1979年生まれ。社会学者。2016年に首都大学東京で博士号(社会学)取得。現在、琉球大学非常勤講師などを務める。共著に「最強の社会調査入門」など。

ヤンキーと地元 (単行本)
打越 正行
筑摩書房
売り上げランキング: 2,984