〈記者解説〉負担軽減をアピールしているが、危険な実態は変わらない 米軍運用を最大限配慮する日本政府


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北部訓練場返還式で記念撮影する(左から)マラベット米海兵隊太平洋基地司令官、宮城久和国頭村長、マルティネス在日米軍司令官、菅義偉官房長官、ケネディ米大使、稲田朋美防衛大臣、ニコルソン在沖米四軍調整官、伊集盛久東村長=2016年12月22日午後、名護市の万国津梁館

 防衛省が北部訓練場の返還区域の上空をいまだに米軍に提供しているのは、ヘリパッドの建設などで機能を強化した米軍の運用に最大限配慮しているからだ。政府は「過半の」北部訓練場の返還で沖縄の基地負担軽減に取り組む姿勢をアピールし、名護市辺野古の新基地建設へ理解を求めている。しかし上空を米軍が自由に使用できる実態は変わっておらず、墜落や部品落下などの危険性を放置しているのが実情だ。

 北部訓練場の返還によって日本国内にある米軍の専用施設・区域のうち、沖縄が抱える割合は74%から70%に縮小されたが、返還された土地は訓練弾やドラム缶など米軍が廃棄した危険物などが相次いで発見されており、安全な利活用は困難な状況だ。

 東村高江の集落近くに建設されたヘリパッドでは昼夜を問わずオスプレイや米軍ヘリが飛行しており、2017年10月には東村高江の民間牧草地にCH53Eヘリが不時着・炎上する事故も発生している。

 米軍基地の上空の訓練空域は北部訓練場だけでなく、キャンプ・シュワブ(名護市)と同基地に隣接するキャンプ・ハンセン(金武町、宜野座村など)にまたがる通称「中部訓練場」などにも存在する。中部訓練場では小火器を使った訓練などのため飛行制限の高度を高くする計画を進めるなど、米軍は本島上空で訓練を活発化させる構えだ。

 さらに沖縄周辺でも米軍が訓練する際に民間機の飛行を制限する臨時米軍専用空域「アルトラブ」が16年12月以降、既存の訓練空域を大幅に上回る形で設定されている。戦後74年が経過しても、陸地や周辺海域も米軍が空域を“実効支配”し、訓練で自由に使用できるのが沖縄の現状だ。

 北部訓練場の返還では式典を催し、負担軽減に向け沖縄に寄り添う姿勢をアピールした政府だが、米軍機の墜落や不時着、部品落下など県民の生命と財産に直結する危険性には無策のまま、米軍の運用を優先している。
 (松堂秀樹)