『南の島の東雲に』 波乱の人生の物語


社会
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『南の島の東雲に オリオンビール創業者 具志堅宗精』玉城英彦著 沖縄タイムス社・1944円

 沖縄の燃える夏。ひと仕事を成し遂げた後のビールの一杯。スポーツで流した汗を鎮める、この一杯。南国の沖縄には、そよ風のように染みわたる、さわやかなこの一杯。

 戦前、戦中、戦後の沖縄の混乱期に、一条の灯(あか)りをともしたオリオンビール創業者具志堅宗精氏の、沖縄の苦難の歴史を自らの足で駆け抜け、開拓した波乱の人生の物語である。高校時代を名護の街で過ごした玉城英彦氏の労作であり、著者の思想の原点も同時につづられている。

 著者の思想の背景には本島北部、古宇利島を包み込む羽地内海から東シナ海、そして太平洋へと広がる青い海、青い空がある。澄んだ自然に秘められた「力」はバネとして作用し、広い世界へと飛び出す原動力をなしている。

 世界の歴史、日本の歴史は教科書で学問として学んだ。しかし郷土の歴史には机上の学問としての歴史ではなく、地に足をつけ、時代を切り開くための「力」が秘められていた。為政者の説く忖度(そんたく)政治とその地に根ざした地道な政治の世界には大いなる相違がある。頭の中の歴史と流した汗で体得した歴史にも距離がある。

 戦争が起こってからでは遅い。こんなにも澄んだ海を、山を、戦争の道具に置き換えていいのだろうか。「抑止力」と称する幻想に迷わされてはいけない。

 「ギブ・ミー・チョコレート」。戦後、米軍の軍事演習後のトラックを裸足(はだし)で追い掛けた時代の精神は払拭(ふっしょく)できたであろうか。「交付金」を追い求める政治から、景気の波に左右されない持続する社会を求めて、先人の汗で築いた琉球の歴史の再考が求められる。

 昭和。悲惨な戦禍を体験した方々と、戦争を知らない世代が交錯した時代であった。歴史は語り継がなければならない。平成。経済最優先、金銭崇拝の時代に、戦争の準備が整いつつあるのでは…。令和。沖縄の先人の平和を求めた足跡から、若い世代が足元を見つめつつ、理想を追求するよう背中を押す啓発の書がここにある。特に平成の若い世代に一読をお勧めする。  (石川清司・介護老人保健施設「あけみおの里」施設長)

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 たましろ・ひでひこ 1948年今帰仁村古宇利島生まれ。北海道大学名誉教授・客員教授。著書に「恋島への手紙」(新星出版)、「社会が病気をつくる-『持続可能な未来』のために」(角川学芸出版)など。

 

南の島の東雲に─オリオンビール創業者 具志堅宗精
玉城英彦
沖縄タイムス社 (2019-03-28)
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