【島人の目】波乱の年月を歩んだ絵


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 ワシントンDCにある懐石料理が評判の日本料理店「孚(まこと)」の壁に掛けられた大嶺政寛氏の風景画は、こぢんまりとした品のいい店に調和し、沖縄出身者が訪れると赤瓦が郷愁を感じさせてくれた。

 東京出身の先代店主がアンティークショップでその絵に一目ぼれし即購入したと話してくれた。数年前に先代が亡くなり息子が店を継いだ。いつの日か絵は取り外され、先代の仕事着の入ったガラスケースが飾られた。そして昨年末、店は閉店した。

 メリーランド州在住の真栄城美枝子さんは絵の行く末が気になり、店の常連だった友人を介して息子と交渉した。「この絵は歴史的価値があり沖縄県に寄付するために買う」と嘆願し、念願かなって美枝子さんの手元へ。彼女の思い入れは単に大嶺の作品であるというだけではなく、絵の裏側に書かれた文言にあった。

 「琉球列島高等弁務官 ポール・W・キャラウェイ殿 那覇市長 西銘順治、1963年12月25日」

 キャラウェイは絶対権力者として君臨した。「沖縄の自治は神話である」と言い、強権的な政策は「キャラウェイ旋風」と称された。米国留学から帰り米国民政府(USCAR)で働いた経験のある美枝子さんはキャラウェイへの贈り物であることにショックを受け、複雑なやり切れない気持ちになった。だが考えた。「絵を通して当時の苦い思いを共有するのもありだと感じた。キャラウェイ時代を生き抜いた人たちが元気なうちに見てもらいたい」

 「この絵は沖縄に帰るべき」。美枝子さんの思いと行動で赤瓦の風景画の里帰りが実現した。波乱の年月を歩んだ絵は30日から県立博物館・美術館の新収蔵品展で展示される。 (鈴木多美子、バージニア通信員)