フィギュアスケートの紀平選手ら在学 今話題のN高に潜入取材 パソコンに向かってひたすら話す先生たち、バーチャル教室でも生徒とじっくり向き合う KADOKAWAとドワンゴが設立 専門性高めたい生徒に人気 沖縄や東京などにキャンパス


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N高等学校から見える美しい海をバックにN高等学校のロケーションを自慢する與古田周平教諭=4月22日、うるま市伊計島の同校

 フィギュアスケートのトップ選手、紀平梨花さんが在学することなどで話題のネット通信制高校「N高等学校」(N高)の本校は、実は沖縄県内にある。生徒は約9700人。ネット配信の講義を自宅で受ける同校の本校には何があるのか、生徒がいない学校で先生たちは何をしているのか。ネット通信制高校のリアルな舞台裏を明かすべく、入学式から間もない4月22日、記者が学校に潜入した。

 N高広報に教えられた住所は、うるま市伊計島だった。美しい海の上を走る県内屈指の絶景スポット「海中道路」を通り、さらに何本かの橋を渡った先だ。車で向かうと、たどり着いた場所にあったのはオーソドックスな学校。それもそのはず。同校の校舎は、閉校した伊計小中学校を改装したものなのだ。

画面の向こう側にいる生徒と話すN高等学校の担任

■教室

 玄関のそばにあるカフェのようなスペースで出迎えてくれたのは、同校教諭の與古田周平さん(30)。2016年4月の開校時から勤めている“最古参”だ。もちろん教員免許は取得しており、興南高校などでも勤務経験がある。雑談もほどほどに、記者が「普段は何をしているんですか」と本題を切り出すと、與古田さんは「今は担任あいさつですね」とさわやかに答え、担任が集まる教室を案内してくれた。

 そこで目にしたのは、ヘッドセットを装着し、パソコンに向かってしゃべる先生たち。その姿はコールセンターの従業員のようだ。先生たちは生徒や保護者と会話する中で、生徒の学習環境は整っているかなど、細かく確認していた。「普通の学校だと、生徒と担任がこんなに話す機会はない。生徒一人一人とじっくり向き合えるのもN高校ならではです」。普通校の勤務経験がある與古田さんが胸を張った。

 先生たちはあいさつが終わると、ネット上でコメントのやりとりができる「スラック」というアプリに生徒を招く。その後はスラック上でホームルームを行う。與古田さんに過去のスラックを見せてもらうと、生徒A「起立」、生徒B「ガタッ(いすから立ち上がる音)、生徒C「よろしくお願いします」といったやりとりがあった。生徒はバーチャル空間でもリアルの教室にいるような気持ちで臨んでいるようだ。

■インスタ映え

 続いて向かったのは、生徒が授業を受ける教室。実は、通信制高校でも全く学校に来なくていいということではなく、年に数日は「スクーリング」という登校日がある。N高校にもスクーリングがあり、毎月数日間、全国各地から生徒が集まる。単位を取るためには欠かせない授業だ。

 オープンスペースの教室の壁には、過去のスクーリングの様子を紹介する写真が飾られていた。写っているのは料理をしたり、マリンスポーツをしたりして、笑みをこぼす生徒の顔。数日間、近くのホテルに泊まって通うN高のスクーリングは、さながら修学旅行だ。

 写真には地元自治会と生徒が交流する様子もあった。小さな島の住民にとって、子どもが集う学校は地域の希望だったはずだ。伊計小中の閉校で落ち込んでいた島の人々は、N高の開校で再び希望を見いだしたのかもしれないと思った。

 記者が写真を見てうらやましがっていると、與古田さんが「生徒から人気のインスタ映えスポットです」と、ベランダを指さした。そこから見えるのは真っ青な海。リゾートホテルにも負けない景色が広がっていた。通信制を選ぶ生徒の中には、学校の集団生活で傷ついた子もいるかもしれない。豊かな自然が癒やしになってほしいと願った。

(稲福政俊)

〈用語〉N高等学校
 出版大手のKADOKAWAと「ニコニコ動画」で知られるドワンゴがインターネットを活用する新たな学校として2016年4月に設立した。「ネット」と「通学」の2コースで高卒資格が取れる。プロの講師陣による多彩な講義が魅力。スポーツや文化活動で学校に通う時間が制限される生徒や、特定の分野で専門性を高めたい生徒などに人気がある。うるま市伊計島の本校のほか、東京、名古屋、大阪、福岡などにもキャンパスがある。