『島嶼地域科学という挑戦』 新たな学問分野の樹立


社会
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『島嶼地域科学という挑戦』池上大祐、杉村泰彦、藤田陽子、本村真編 ボーダーインク・3024円

 「挑戦」というタイトルが示す通り、たいへん意欲的な内容である。琉球大学島嶼(とうしょ)地域科学研究所に集う俊秀(しゅんしゅう)らが挑むのは「島嶼地域科学」という新しい学問分野を樹立すること。島嶼は島々の集まりを意味する。

 島は、水域に囲まれた相対的に小さな陸地である。多くは国・地域内の辺境にあり、それゆえに、破壊された自然や矛盾を抱えた社会の様相が身近に表面化しやすい。だが圧倒的多数の人々が島以外の土地に住む現状では、島のもつそうした問題性は気づかれにくい。しかし一つの島にある問題性を突き詰めてゆくと、それはその島に限らず多くの島々に共通することが明確化し、さらには島よりも大きな土地にも関わる普遍性を持つ問題であることが知られる。こう考えて、島の研究は積み重ねられてきた。たとえば沖縄が平和を願うのは、悲惨な戦争体験を有するからで、沖縄が島であるからではない。島の研究を、島「で」研究するだけでなく、島「を」研究することに昇華させる手筈(てはず)だった。

 だが実際は、個別の島での研究成果が島嶼一般を語ることにまで発展する道筋は遠かった。編者らが共有する問題意識はそうした反省の上に立つ。島の研究を通じて「島嶼を」研究すること。大陸に対して「島嶼」という地域を対峙(たいじ)させ、その多様性の追究という柱のもとに、新しい知の体系を構築すること。そこに、島に基軸を据えた学問への挑戦がもつ意義が存在する、と。

 こうした試みは、もちろんなまやさしくはない。本書各章はさまざまな専門分野に立脚する学究による個別のすぐれた研究成果からなる。編者らはそれらを、生活体験・文化表象・越境的ネットワークという三つの枠組みを提示して、有機的に結びつけるべく腐心している(本書序章)。しかし、本書に掲げられた「島嶼地域科学」の理想は壮大で魅力的であり、その構想が実現できれば、島嶼地域・沖縄の人々が誇るべき学問的偉業となることは疑いない。ぜひ多くの人に本書を手に取って、編者らの試みを応援激励していただきたい。

 (中俣均・法政大沖縄文化研究所所長)

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 いけがみ・だいすけ 琉球大学国際地域創造学部准教授

 すぎむら・やすひこ 琉球大学農学部准教授

 ふじた・ようこ 琉球大学島嶼地域科学研究所教授

 もとむら・まこと 琉球大学人文社会学部教授。