辺野古移設の遅れは沖縄県の責任? 政府が県批判、県は反発 辺野古移設と那覇空港第2滑走路増設、両事業を比較しました


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埋め立て工事が進む辺野古沿岸部。右は軟弱地盤が存在する大浦湾一帯=2月23日、名護市の大浦湾(小型無人機で撮影)

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、政府は、ほぼ同時期に埋め立て承認を受けて2020年3月末に運用開始予定の那覇空港の滑走路増設を引き合いに地元の協力の必要性を説いている。だが新基地の場合、県の協力や県民の理解の有無にかかわらず、作成できるはずの護岸の設計さえそろわず、軟弱地盤の存在などから1年目に予定していた護岸建設に着手できていないのが実態だ。

 今年2月、菅義偉官房長官は記者会見で普天間飛行場の運用停止について問われ、那覇空港の例を持ち出し「那覇の第二滑走路は協力を頂いているので、来年には完成する予定だ」と語った。目的や規模など性質が異なる両事業を比べること自体が疑問視されてきたが、辺野古の工事の遅れについて県や県民に責任を転嫁する形で正当化しようとしたことに県は反発。埋め立て承認撤回についての審査過程で国土交通省に送った意見書で反論した。

設計出せず

 辺野古新基地建設について当時の仲井真弘多知事は13年12月27日、沖縄防衛局から申請された公有水面埋め立てを承認した。年末年始を挟んだ2週間後の14年1月9日、那覇空港の滑走路増設事業についても沖縄総合事務局に埋め立てを承認した。那覇空港の事業は複数回の変更を経ながら進み、20年3月末には運用が始まる見通しとなった。辺野古新基地建設は工事が始まって1カ月目に着手する予定だった護岸建設が始まっていない。

 この違いについて政府は辺野古移設に県の協力が得られていないためだと主張しているが、県は否定している。政府への反論を盛り込んだ意見書についての記者会見で県側の松永和宏弁護士は「辺野古工事が遅れているのは協力がないからではなく、設計すらできていないからだ」と指摘した。

 県によると、那覇空港の事業で総合事務局は埋め立て承認を得た後、14年2月3日には全体の実施設計を提出し、同月下旬には護岸工事に着工している。

 一方、辺野古新基地建設では承認から5年が過ぎても、軟弱地盤が広がる大浦湾側の護岸の設計は一部しか提出されていない。

 会見で加藤裕弁護士はこう強調した。「那覇空港は1カ月後に設計変更が出た。まさに準備万端で始まった。辺野古では承認段階できちんと準備せず、見切り発車したのではないか」

 沖縄防衛局は4月26日、地盤改良工事の計画を立てて護岸を設計し直す業者を募り始めた。契約期間は20年3月末までとなっている。

埋め立て条件

 埋め立て承認の根拠となる公有水面埋立法は「埋め立て後の用途に照らして適切な場所と言えるか」「埋め立て後の土地利用は海を埋め立てるのに見合う価値があるか」などを問う。埋め立てに必要な条件の一つとして「国土利用上、適正かつ合理的であること」を挙げているためだ。

 政府は、辺野古埋め立ての目的を普天間飛行場の早期返還のためだと説明してきた。だが軟弱地盤の存在で工事の長期化が確定し、辺野古移設以外にも那覇空港が念頭にあるとみられる返還条件が明らかになっている。これらの理由から県は「辺野古移設が普天間の早期返還のためだという理由が成り立っていない」と指摘し、昨年8月、承認撤回の理由の一つとした。

 政府は地元の協力が得られていないことを工事遅れの理由にしてきたが、理解と協力を得られていないこと自体が「国土利用上、適正かつ合理的」であることを否定する要素となり得る。

 県は軟弱地盤のために新基地建設に今後13年以上かかるとの試算を出している。政府に反論した意見書で「工事が進んでいない状況で辺野古移設にこだわることは普天間の危険性を固定化することにほかならない」と批判した。 (明真南斗)