「はいたいコラム」 小農の大逆襲 九州から


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 島んちゅのみなさん、はいた~い! 先日、福岡市内で「小農学会」のシンポジウムが開かれました。「小農」とは、利潤追求のための農業ではなく、そこに住み、暮らしを目的に営む農業のことで、別名、家族農業と呼ばれます。

 「小農学会」は2015年、鹿児島大学名誉教授の萬田正治さん(77)と、佐賀県唐津市の農民作家、山下惣一さん(82)の2人を共同代表として設立されました。

 現在、霧島市で合鴨農法を主体にヤギも飼養し、有畜複合経営を実践する萬田さんは「霧島生活農学校」を開いて後継者の育成にも努めています。研究者時代、合鴨が草や虫を食べ、糞(ふん)が肥料となる循環型で無農薬の米づくりを実現させた萬田さんは、全国の農家と交流する中で、農業には、産業としての農業と暮らしとしての農の2種類あり、これらは区別して策を講じるべきだという考えに至りました。

 同じく、農民作家の山下さんは、「小農救国論」や「市民皆農」など多数の著作で知られ、農業とは、成長や拡大ではなく持続を目指すものであり、企業ばかりに任せるには無理がある。また、販売額が年間50万円に満たない自給的農家は、農政から存在が無視されているなど、小農消滅の危機を指摘し、農の価値を訴えています。

 そこで農の現場から、大規模経営、経済効率という単一の価値観だけではなく、地域の暮らし、農村が持つ多様な豊かさを、小農自ら団結して発信していこうというのが「小農学会」です。シンポジウムには100人近くが集まり、徳之島から駆け付けた人もいました。

 今年は国連による「家族農業の10年」が始まり、「小農の権利宣言」も採択されました。家族農業(小農)は、世界の食料生産額の8割以上を占めることが国連食糧農業機関(FAO)でも報告されています。しかも日本の家族農業は97%、実は世界屈指の小農国なのです。

 萬田農園ではこの春、農学校の教室兼カフェを始めました。納屋を改築した風格のある建物で、合鴨ランチや卵かけごはんなど自家産メニューが想像以上の人気です。心を込めた手作りのおいしさは伝わるのです。同時に地域内外の人々がこうして語り合える場を求めていたのでしょう。今までおとなしくしていた小農自ら存在価値をアピールする“小農の大逆襲”が九州から始まっています。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)