【深掘り】辺野古工事の加速にはつながらないのに、政府が本部港を使うのはなぜか?


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 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、沖縄防衛局は21日、埋め立て用土砂の搬出に本部港塩川地区(本部町)を再使用した。4月に本部港から土砂を搬出した際は市民が抗議行動で作業を遅らせたが、今回は防衛局側が柵を設置することで抗議行動の排除に成功した。港を管理する県が柵の設置を容認したことも波紋を呼びそうだ。一方、現状では本部港の使用は工事の加速につながらず、既成事実を積みたい防衛局の思惑が透ける。

■体裁

 台風で壊れていた港が復旧して初めて使用されたのは4月25日だ。それから約1カ月間が空いて再使用した5月21日、作業は当初の予定通り午前中で終わった。県幹部の一人は「作業効率を上げたいのだろうが、そもそも陸揚げ場所がない」と指摘した。

 辺野古新基地建設現場では、船で運んだ土砂をいったん陸地に揚げた後、陸からブルドーザーで投入している。土砂を陸揚げできる場所が1カ所しかないため、一度に揚げられる土砂の量も限られる。政府は先行して土砂搬出に使用している琉球セメントの桟橋(名護市安和)に加えて本部港を使う方針だが、陸揚げ量を増やさなければ土砂投入の加速にはつながらない。陸揚げ場所の増設作業は6月までかかる見込みだ。

 それでも4月と5月に1度ずつ、本部港を使ったのは政府の「メンツ」(政府関係者)を保つためで、工事を滞りなく進めているという体裁を整える意図が透ける。民間の所有物である琉球セメントの桟橋では社の都合に作業が左右される可能性があり、公共物である本部港の使用権限を確保しておきたい考えもある。

 港の使用許可権限を握る本部町は申請を受ける際に「本当に使うのか」と念を押し、使用する船についてのみ申請するよう業者に求めている。政府関係者は「申請して許可を受けている以上、使わない訳にはいかない」と説明する。

港の荷さばき場に柵を設置し、造られたトラックの誘導路=21日午前、本部町崎本部の本部港塩川地区(小型無人機で撮影)

■障壁

 本部港を使用する際、政府にとって障壁となっていたのは市民の抗議行動だった。4月に本部港を使用した際は市民約30人が港内に入り、土砂を運ぶ車両の前に座り込むなどして作業を止めた。関係者によると、車両はトラック約40台分を予定していた。だが実際に搬入できたのは24台にとどまった。社の権限で立ち入りを禁止できる琉球セメントの桟橋と違い、公共の本部港では強制的に排除できず、防衛局は頭を抱えていた。

 そこで防衛局から工事を受注する業者が5月17日、県に柵の設置を認める旨を要請した。県港湾課は設置に理解を示した。政府は本部港を再使用した21日、県の「お墨付き」を盾に約50メートルの柵とオレンジ色の網で計約70メートルにわたって工事車両の通り道を確保した。

 市民らは土砂を積み込む現場に接近できず、離れた所で抗議せざるを得なかった。4月は抗議活動に阻まれて午前中で積み込めた土砂は車両1台分だったが、5月21日は午前だけで予定していた181台分を搬入した。抗議参加者から「柵設置に法的根拠はない」などと反発の声が上がった。

 県の担当者は「事故が起きてけが人が出てからでは遅い。安全管理と言われると仕方ない」と説明した。過去に工事に必要なサンゴの移植を県が認めた際、新基地に反対する市民が県に抗議した。今回の柵設置を認めたことでも県民から反発が予想される。ただ、港湾課が柵設置を認めたことは県首脳に伝わっておらず、県全体で決定した方針ではないとみられる。
 (明真南斗、岩切美穂、吉田早希)