『抗いと創造―沖縄文学の内部風景』 10人の詩人への鋭い批評


社会
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『抗いと創造―沖縄文学の内部風景』大城貞俊著 コールサック社・1944円

 「文学の不毛の地」と言われることもあった沖縄では、しかし優れた小説や詩が脈々と書かれ続けてきた。本書は、1989年から2018年までの沖縄で生まれた、あるいは沖縄に関わる詩について文学史的に紹介、批評したものである。これまで著者・大城貞俊は『沖縄戦後詩史』『沖縄戦後詩人論』などの文学史や詩人論を公刊してきたが、本書はその姉妹編にあたる。とりわけ白眉(はくび)は第3章に収められた詩人論であろう。10人の詩人に対する躍動感あふれる、そして鋭い批評を読むことができる。なかでも牧港篤三論と清田政信論が目を引く。詩に関わり続けた著者ならではの円熟の批評であろう。

 書籍タイトルに使われている「抗(あらが)い」と「創造」は、一方で「これまでの書き手」と「新しい書き手」のことである。とはいえ注意が必要である。なるほど新しい書き手の表現には新味がある。しかし大城はそれを受け入れつつも、状況や生活世界から離れてしまうこと、沖縄戦というテーマが薄れること、そして難解な内面表現に傾倒しすぎることへの違和感を――表立ってではないものの――投げかけているからだ。そのため「創造」には不透明感がつきまとっているようにも見える。

 他方で「抗い」のなかの「創造」も本書から読み取ることができる。例えば芝憲子「海岸線」には、買った大根が気づくと人の足になり、それを市場のおばさんに見せたところ「うちの人の左足」と答える場面がある。ここで読まれるのは、人々に沖縄戦を幻視させていく詩語である。つまりそれは戦争そのものへの「抗い」であり、そのために「創造」された言葉である。したがって「抗い」と「創造」は多面的に絡み合う必要がある、というのが本書のメッセージの一つであろう。現状に抗いつつ内面を注視したとされる清田政信論が本書の最後に置かれているのも、この絡み合いこそが沖縄の現代詩の課題だと大城が考えているからだと思われる。豊かな詩の歴史とその困難を知る上で、本書の果たす役割は大きい。(呉世宗・琉球大学教員)

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 おおしろ・さだとし 1949年大宜味村生まれ。元琉球大学教授。詩人、作家。九州芸術祭文学賞佳作、山之口貘賞など受賞。主な著書に小説『椎の川』『アトムたちの空』、詩集『或いは取るに足りない小さな物語』など。

 

抗いと創造
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