『合同歌集 花ゆうな 第25集』 平成最後の節目の刊行


社会
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『合同歌集 花ゆうな 第25集』花ゆうな短歌会編 新星出版・2160円

 花ゆうな短歌会(主宰・比嘉美智子)の合同歌集第25集が出版された。第25集と平成最終年の刊行という節目の重なりが印象に残った。

 第一章は、会員30人25首ずつの作品と、琉球新報掲載の月例合評会の記事を。第二章は、評論、大城貞俊氏の講演録「沖縄に寄り添う文学」と、2人のエッセーとトピックスを収録。

 《三百年名護見守りて数多の杖つきて踏んばるひんぷんガジュマル・宮城鶴子》《佐保姫の呼ぶ声届くや岩礁に命をつなぐ石蓴の芽吹く・安仁屋升子》《アルタイル・デネブとベガにアンタレス与那国は今宵銀河サミット・山田恵子》。1、2首目、生命力の逞(たくま)しさが伝わる。3首目、星の名をリズムよく連ねて、島の空の神秘なる美を詠んでいる。

 《武器なきを平和と見ざる国ありて世界の空は暗雲増せり・仲村起徳》《「突き」でなく「受け」に始まる護身術伝統空手の神髄を聴く・大城直子》《しづかなる海辺の村に人波の打つ日々つづく「NO基地」掲げ・永吉京子》《猛り鳴く蝉の声聞く昼下がり玉音放送聞きし記憶も・真栄城和子》。戦争のない世界の平和を切実に願っている県民の思いが滲(にじ)む。

 《翁長知事の長き葬列続きをり永久の別れに遣らずの雨降る・仲里博恵》《逝きし人も還り来るらむ夕暮れの芝草濡るる今日戻り梅雨・神里直子》。亡き人への哀(かな)しみ、懐(おも)いが読者の心をも濡らす。

 《億光年かけて届きし文のあるとうに滅びし星の書き置き・銘苅真弓》《寂しさのふつと湧きくる時の間は暮色が街を塗りかへてゆく・津野美祢》《介護師に委ぬる身にはすべのなし病床に沈む老いのプライド・伊波邦枝》。表現の巧みさに読む者を魅了する。

 ・座喜味城(ざきみじやう)その城壁は青空を横に斬りつつ聳(そび)え立つなり

 沖縄の歴史を甦(よみがえ)らせる比嘉美智子の一首を締め括(くく)りとして改めて思うのは、年を重ねた人々の豊かな経験と知識の裏打ちのある多くの作品に出会えたことである。

 (屋部公子・現代歌人協会会員)