芝職人って知ってる?FC琉球ホーム戦無敗を支える影の立役者 ミリ単位の調整が勝利につながる


社会
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芝刈り機で広いピッチを手入れする謝敷宗幸さん=5月30日、沖縄市のタピック県総ひやごんスタジアム(ジャン松元撮影)

 Jリーグ最多となる29試合連続で、ホーム戦の無敗記録を更新中のJ2・FC琉球が8日午後7時半から、「30」の大台を懸けてツエーゲン金沢と対戦する。躍進を後押しするのは、ホームのタピック県総ひやごんスタジアム(タピスタ)の管理をする芝職人の謝敷宗幸さん(36)だ。手塩にかけたピッチが、琉球の攻撃を加速させている。

 県の「芝人(しばんちゅ)育成事業」により芝職人が増え、年間を通して青々としたピッチを保つことができるようになった。謝敷さんは2016年からタピスタの管理を任され、週に3~4回、年間で100回以上刈り込みを行う。強い日差しが照りつける夏場でもホースで散水を続けるなど、労を惜しまない。

 金沢戦は引き分け以上で「30」に乗る。謝敷さんは「選手がけがしないように管理していきたい」と言葉は少ないが、チームを支える芝人の覚悟が見える。

ピッチ内のダメージが大きい部分に穴を開け、芝を土ごと移植する謝敷宗幸さん=沖縄市のタピック県総ひやごんスタジアム(ジャン松元撮影)

リスク覚悟

 じゅうたんのようにきれいに生えそろった芝生はボールをよく弾ませ、転がる速度も速くなる。平均パス数がリーグ上位で、高いポゼッション技術を擁する琉球にとって欠かせない要素だ。謝敷さんは16年からFC琉球のホームであるタピック県総ひやごんスタジアム(沖縄市)の管理を任された。芝の長さは18ミリが最も管理しやすいとされる。だが「もっと琉球のために何ができるか」と考え抜いた末に、18年からは芝の長さを18ミリから13ミリと短くした。耐久度が落ちるリスクを背負う覚悟を決め、これまで以上に丹念な管理を心掛けた。

 芝の効果がより強く出た18年は、素早いパス回しからゴールへ向かう「超攻撃的サッカー」でJ2昇格、J3最速優勝を決めた。シーズン後に金鍾成前監督、選手は口々に「ピッチが強さの秘訣(ひけつ)」と語っていた。今季からJ2に昇格し、計42試合の半分をホームで戦う。謝敷さんは「2週間に1回試験がくる」と気を引き締め、毎日ピッチと向き合い続けている。管理委託業務内容に含まれていないがほぼ毎回、試合前には水をまいてボールの滑りをよくするなどチームのための努力を惜しまない。

沖縄の“芝人”

 沖縄で青々とした良好なピッチがつくられた背景には、県の「芝人(しばんちゅ)育成事業」の委託業者である東洋グリーンの石井洋介・沖縄営業所長(39)の存在がある。芝管理の第一人者で「ウインターオーバーシード」という高度な手法を県内で普及させた。暖地型の芝(夏芝)が冬に休眠している上から、寒地型の芝(冬芝)の種をまき、1年を通して緑の芝生を保つことができる。

 冬芝といっても適正温度は10~25度だ。県外だと冬の間に芝枯れが目立ってしまうが、沖縄の温暖な気候は冬芝に最適で、1年間青々とした状態を継続できる。開幕前の調整では選手がけがなく調整を行うことが可能に。沖縄の温暖な気候と優れたピッチを求めて、開幕前は県外のチームが沖縄に集うようになった。19年の沖縄キャンプはJ1勢を中心に過去最多の27チームが参加した。

手塩にかけ

 しかし「ウインターオーバーシード」は高度さゆえに手間がかかる。耐久性が落ちる夏芝と冬芝の切り替えの時期は、目が離せない。さらに沖縄の「水をまいたそばから乾いていく」(謝敷さん)日差しの強い環境で毎日、ホースで水をまき続ける必要がある。週に2~3回、3時間かけて刈り込むことで横に生長し、芝芽の数が増えることでクッション性の高いピッチをつくることができる。29試合連続で続く無敗記録の内訳は19勝10分けと、高い勝率を維持している。謝敷さんは「チームのためにこれからも頑張りたい」と意気込む。石井さんは「琉球が勝つと僕たちの価値を高めてくれる。そして沖縄が盛り上がるためなら」と協力を惜しまない。頼もしい芝人によって、琉球は支えられている。 (喜屋武研伍)