[日曜の風]年金がでたらめ 信じられる社会を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 最近一番驚いたのは、金融庁が先ごろ公表した報告書に、「95歳まで生きるとしたら公的年金のほかに夫婦で2千万円が必要」と書かれていたことだ。さほどぜいたくな暮らしをしなくても、年金だけだと毎月5万円ずつ赤字になるという。

 しかも、年金を管理する独立行政法人は、昨年、国民から預かったお金の運用に失敗し、14兆円もの赤字を出したことが明らかになった。それが明らかになったのが1月のことで、それから半年もたたないうちに「このままじゃ年金が出たとしても夫婦で2千万円足りなくなりますよ」と言われるとは、私たちはまったく甘く見られているとしか思えない。

 もっと深刻なのは、下の世代だ。年金が何歳からどのくらい支給されるのか、きちんとした見通しも立っていないのだ。大学でこの話をしたら、学生たちから「じゃいくら貯金すればいいの? 4千万円? もっと?」と悲痛な声が上がった。そして当然のことながら「収めた分ももらえないなら、年金を払いたくない」という声も出た。学生でも20歳になったら年金の納付義務があり、手続きをした場合だけ待ってもらえることになっているのだ。

 「まじめに生きて、働いていればなんとかなる」。私たちは親からそう教わって暮らしてきた。ところがここに来て、「まじめに生きてきた人がバカを見る」という雰囲気が強まっている。何度も民意を示しても辺野古新基地の建設が進む沖縄の人たちなど、まさにそれを感じていることだろう。

 こんなことが続けば、社会は完全に無秩序な混乱状態になる。政府、行政、マスコミ、裁判所、もうどこも信じられない。そして年金までがデタラメ。そんな社会を少しでもなんとかしなければ、若い人たちがあまりにかわいそうだ。

(香山リカ、精神科医・立教大教授)