『沖縄エッセイスト・クラブ 作品集36』 成熟した大人との出会い


社会
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『沖縄エッセイスト・クラブ 作品集36』沖縄エッセイスト・クラブ編 新星出版・1500円

 聞けば、年1回の刊行を心待ちにしているファンが多い、と云う。読めば、なるほど、そうなるな、と深く得心がいって、早速ファンの一人になり、逸(はや)る心が言う。はや次が読みたい、あるいは過去のこれまでの作品はどうだったのだろう、と。

 本土復帰10周年の1982年に活動を始めた「沖縄エッセイスト・クラブ」が、翌83年に第1号の作品集『蒲葵(くば)の花』を発刊以来、作品集を1回も休刊することなく今回で36集に達した、さて、その本のことである。クラブ会員の身近な生活・心情を、抽象的な理念・観念や概念に拠(よ)らずに、具体的に描くことを基本的なスタンスに、研鑽(けんさん)を積んだ今回の執筆者は33人。

 いずれも手練(てだれ)の作品。何気ない日々の暮らしの中に埋もれた人生の真実、在りし日の光景、記憶、思い出の中に鎮めた感動、迸(ほとばし)る愛郷心、家族愛、旅先の豊かな見聞、人生の晩年に寄こす思索、歴史研究、自然観察、趣味音楽詩歌、戦後沖縄の庶民史の一齣(こま)、等々。それぞれが、持てる感性、理性、はたまた霊性さえも総動員し、ほのぼのとしたユーモアあるいはペーソスを醸し、瑞々(みずみず)しい感性、しなやかな抒情(じょじょう)、繊細な精神、ユニークな見解を披歴する。人間(社会)の複雑怪奇な現象を虚心坦懐(きょしんたんかい)に観察、分析し、精確(せいかく)に記述描写するエセー、パンセの著者モンテーニュ、パスカルに連なるモラリストの系譜を、今、沖縄で継ぐ。

 身辺雑記から学術研究論文や小説にも見紛(みまが)う文章を収めた人間観察記の試み(エセー)のアラカルト。平易な文章で人生に纏綿(てんめん)する情緒を掬(すく)い取り、その奥深い滋味妙味に浸れて私たちの情操を蘇生させ豊かにしてくれる。ハズレの無い一皿ばかりだ。

 ここにきて、人はパンのみにて生きるにあらず、コトバを食べて生きている生き物だとつくづく思わされる。他でもない、我々(われわれ)人間はコトバを紡ぎながら人生という織物を織りなし編み上げていく生き物だからだ。ここで読者は、他者とともにより良く生きる、誇りとゆとりを失わない成熟した人間(大人)に出会えるはずだ。良い出会いを。 (田場由美雄・「本の虫」主宰・県立芸大付属研究所共同研究員)

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 沖縄エッセイスト・クラブ 「作品集36」は会員33人が寄稿している。同クラブは1983年以降年に1回、合同エッセイ集を発刊している。

 

沖縄エッセイスト・クラブ 編著
四六判 304頁

¥1,389(税抜き)