『新沖縄風物誌』 自然の新たな相貌 描く


社会
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『新沖縄風物誌』喜舎場朝順著 新星出版・1620円

 自然に関する知識(リテラシー)の重要性が再認識されたのは20世紀半ばあたりであった。「自然」は「近代性」になじまないものだという考えに呪縛され、人間は自らを自然からはるか遠く切り離してきた。しかし、20世紀後半から顕著になった地球環境の危機の中で人間と自然(環境)の関係があらためて問い直されるようになり、「環境人文学」のような新しい学問の再編成がいま世界で進行している。このような知の変容を背景に本書を読んでみた。

 本書の構成は、第1章「沖縄の四季」、第2章「沖縄の風物」、第3章「沖縄点描」、第4章「おち穂」となっている。特に、沖縄の季節を24節気の区分を追いつつ、その季節ごとの「風のにおいや光の色」を美しく繊細に描いて最後に俳句を添えるエッセイを集めた第1章は、著者が確立したネイチャーライティングの独創的な様式である。この章で、読者は著者の自然に関する確かなリテラシーと鋭敏な感性が捉えた沖縄の自然の新しい相貌に出会うだろう。

 第2章「沖縄の風物」に収められた短いエッセイは、散文というより、豊かな「場所の感覚」から生まれる散文詩と呼びたくなるほど美しい。斎場御嶽で舞うオオゴマダラを見つめる文章からは著者の魂の震えと聖域の霊気が伝わってくる。

 第3章や第4章のエッセイは含蓄とユーモアに富み、文句なしに楽しめる。そしてその中には鋭い社会批評も混じっている。「この本には高い思想も深い哲学もない」と帯にあるが、これは著者の謙遜した言い方であろう。そもそも沖縄の21世紀に書かれる「風物誌」は、激動の時代を生きてきた者の深い思いに支えられているはずである。「深い哲学」を底に沈めて書かれた「点描」は、読者が「苦(ク)ス」と笑いながら楽しむ仕掛けになっている。

 本書に収録されたエッセイには、草の根元を覗(のぞ)き、亜熱帯の森に分け入り、輝く星座を見上げる著者の姿も描かれている。人間が未(いま)だ全てを知り得ない世界に対する畏れと、自らが生きる場所を確かめようとする著者の透徹した眼差(まなざ)しを読者は感じることだろう。 (山里勝己・名桜大学学長)

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 きしゃば・ちょうじゅん 1934年南風原町兼城生まれ。首里高校を経て琉球大学国文科入学。「琉大文学」同人。日本大学国文科卒業。高校の国語教師。県高教組委員長など。著書に俳句集「沖縄の四季」。

 

沖縄エッセイスト・クラブ 編著
四六判 304頁

¥1,389(税抜き)