「沖縄はいまだ犠牲の中にいる」 ドラマや映画で活躍するウチナーグチ指導者が舞台「木の上の軍隊」のせりふに込めた思い


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「木の上の軍隊」の台本を前にせりふへの思いを語る今科子さん=17日、那覇市内

 井上ひさしさん原案で沖縄戦を描いた劇団こまつ座の舞台「木の上の軍隊」が今月、沖縄で初上演される。舞台で「沖縄ことば(ウチナーグチ)」を指導する今科子(こんしなこ)さん(46)=北谷町出身=は故郷での初上演にひとかたならぬ思いを抱く。続く米軍基地負担に「沖縄はいまだ犠牲の中にいる。戦争はまだ終わっていない」と語り、今の沖縄につながる劇中のせりふに自身の気持ちも重ね、沖縄戦を今に伝えている。

 今さんがウチナーグチ指導を始めたのは18年前、大ヒットしたNHKの連続テレビ小説「ちゅらさん」だった。青年劇場で仕事をしていたつながりで、ドラマに出演していた藤木勇人さんから「話し方が似ている」と紹介され、その後も「沖縄のためになれば」とテレビドラマや映画、舞台など20本以上で指導している。

 20代から指導してきた今さんを支えたのは、「人類館」などを上演してきた演劇集団「創造」に所属していた母・秀子さん(71)だ。今さんは幼い頃から舞台を鑑賞したり、ガマの中で戦争体験を聞いたりして、ウチナーグチや沖縄について学んだ。今でも分からないせりふは秀子さんに教えてもらっている。

2011年公開の映画「天国からのエール」で阿部寛さん(右)に「沖縄ことば」を教える今科子さん(左)

 「木の上の軍隊」は2013年の初演から指導している。舞台は沖縄戦当時の伊江島。終戦を知らずに木の上に隠れて2年間を過ごした日本兵と沖縄の新兵の実話を基にした物語で、戦時中の新兵は上官の日本兵と話す際は「標準語」、心の声などはウチナーグチと使い分けている。今さんも「言葉遣いやイントネーションに気を付けている」と心掛けており、せりふの一つ一つに思いを込める。

 「野営地はでーじ大きく、高く、いっぺー強ーくなっていく」。米軍の野営地が拡大する様子を目の当たりにした新兵のせりふだが、今さんは「今に至る言葉だから大事にしてほしい」と役者に伝えている。戦後74年も米軍基地が集中させられている今の沖縄につながると考えるからだ。

 沖縄戦を実際に経験した世代が減り、継承が課題となる中、今さんは特に若い人に舞台を見てもらいたい。「舞台は答えじゃない。考えてもらいたい」。沖縄戦を語る言葉に思いを託している。
 (仲村良太)